D.TS-1
 TS-1は日本で開発されたフルオロピリミジン系経口抗がん剤であり、第2相試験の結果では、ゲムシタビン単独療法に匹敵する成績が得られる可能性があると期待されてきた。ゲムシタビンとの併用療法も検討され、複数の第2相試験においてゲムシタビン単独療法を上回る可能性があることが報告されてきた。このような背景から、ゲムシタビン単独療法、TS-1単独療法、ゲムシタビン+TS-1併用療法の3群を比較する第3相試験(GEST;Gemcitabine and TS-1 Trial)が日本と台湾の共同試験として実施され、ゲムシタビン単独療法に対するTS-1単独療法の非劣性、ゲムシタビン+TS-1併用療法の優越性が検討された。

 その結果、TS-1単独療法は非劣性が統計学的に証明されたが、ゲムシタビン+TS-1併用療法は良好な傾向であったものの優越性は統計学的には示すことが出来なかった。副作用についてはいずれの群も許容範囲の発現頻度と考えられたが、ゲムシタビン単独療法、TS-1単独療法については両薬剤の毒性のプロファイルの違いが明瞭となる結果となった。すなわちゲムシタビン単独療法では骨髄毒性やトランスアミナーゼの上昇が高頻度であったのに対し、TS-1単独療法では下痢や口内炎、ビリルビン上昇が高頻度であった。すなわちこれらの結果より、両治療法は毒性プロファイルの違いを考慮し、患者の状態に応じて使い分けることが重要と考えられている。

E.1次治療開発の展望
 現在世界中で、進行膵がんに対する新たな1次治療の確立を目指して、多数の臨床試験が実施されているが、その中で期待されている治療の1つとして免疫療法を挙げることができ、国内でも第3相試験が進められている。OTS-102は血管新生阻害作用を有することが期待されているペプチドワクチンであり、OTS-102+ゲムシタビン併用療法とゲムシタビン単独療法とを比較する第2/3相試験が進行中である。

 さらに国内では分子標的治療薬の第3相試験(国際共同試験)も進行している。AMG479は抗インスリン様成長因子-1型受容体モノクローナル抗体で、AMG479+ゲムシタビン併用療法とゲムシタビン単独療法と比較し、延命効果の有無を検討している。抗体薬も比較的副作用の少ない薬剤として知られており、本治療法にも大きな期待が寄せられている。

 海外では、パクリタキセル注射液〔アルブミン懸濁型〕(商品名;アブラキサン)が膵がんに対しても開発が進められており、第3相試験が進行中である。アブラキサンは、アルブミンに従来のパクリタキセルを結合させたナノ粒子製剤であり、生理食塩液での懸濁が可能となっている。これにより、溶媒による安全性の問題が改善されており、乳がんにおいては従来の製剤に対する非劣性及び優越性が確認されており、膵がんにおいても有効性が期待されている。

F.2次治療
 有効な1次治療の開発とともに、1次治療に不応となった患者に対して有効な2次治療を開発することも、膵がん患者の予後を改善するためには重要な手法である。これまでにランダム化比較試験により生存期間の延長を示しているレジメン(OFF療法)も報告されているが、標準治療としての十分なコンセンサスを有する治療法は確立していないと考えられており、複数の臨床試験が進行している。

 国内ではTS-1を中心とした併用療法の開発が主流となっており、TS-1+オキサリプラチン併用療法、TS-1+イリノテカン併用療法がそれぞれTS-1単独療法と比較するランダム化試験として検討されている。また、TS-1+ロイコボリン併用療法は膵臓がん以外のがんで有望な成績が示されていることから膵がんでも期待され、第2相試験が進行中である。

G.切除可能例に対する補助化学療法
 切除可能膵がん患者に対しては、術後ゲムシタビン単独療法が標準治療とされているが、国内ではこの領域でもTS-1が期待されており、TS-1単独療法とゲムシタビン単独療法とを比較する第3相試験、ゲムシタビン+TS-1併用療法とゲムシタビン単独療法とを比較する第3相試験が医師主導の臨床研究として進められている。

3.胆道がん

A. 胆道がんに対する新治療開発の潮流
 胆道がんは日本では患者数が多く、がん死亡数の第6位を占める疾患であるが、海外では希少疾患とされ、大規模な臨床試験を実施することが容易ではないため、高いエビデンスを有する治療法を確立することがこれまでは難しい領域とされてきた。5-FUがキードラッグとして汎用されてきたが、最近ではゲムシタビンが膵がんに対するエビデンスより胆道がんでも多く用いられ、世界的にもゲムシタビンが進行胆道がんに対するコミュニティースタンダードと考えられるようになってきていた。我が国でも国内で実施された第2相試験の成績より、2006年にゲムシタビンが、2008年にTS-1が胆道がんに対して適応拡大の承認を得ている。英国では進行胆道がんに対して、ゲムシタビン+シスプラチン併用療法とゲムシタビン単独療法とを比較するランダム化第2相試験が実施され、主要評価項目である6カ月無増悪生存割合が併用群で良好であったため、登録患者数を拡大して第3相試験が進められた。