膵臓がんと胆道がんは予後の悪いがんの筆頭だ。長くゲムシタビンだけに頼って化学療法を行う時代が続いてきたが、最近になりTS-1、エルロチニブが導入、さらに多剤併用レジメンFOLFIRINOX療法や抗体やペプチドワクチンなども治療薬候補として浮上してきた。この分野の第一人者である国立がん研究センターの奥坂拓志氏に、膵臓がんと胆道がんの化学療法をめぐる最近の動向を解説してもらった。


1.はじめに

 進行膵がんに対して2001年にゲムシタビンが本邦でも承認を受けて10年が経過した。化学療法が最も効き難いといわれていた膵がんに対しても有効な化学療法剤が現れたことで、この10年間に多くの製薬メーカーがしのぎを削って膵がんに対する新薬開発を目指して臨床試験を実施してきた。その多くは明らかな有用性を示すことができず、膵がんにおける新薬開発の難しさを再確認する結果となったが、この数年間では新たな動きも出てきている。

 また胆道がんにおいては、進行例に対してこれまでは明らかな延命効果を示す治療法は確立していなかったが、2010年にゲムシタビンとシスプラチンの併用療法が有用性を示し、新たな時代の幕開けを迎えている。

2.膵がん

A. ゲムシタビン承認後の新治療開発の潮流

 進行膵がん患者を対象にゲムシタビンと5-FUを比較する第3相試験が北米で実施され、1997年にゲムシタビンが統計学的に有意な延命効果を示したことが報告された。ゲムシタビンは2001年に本邦でも膵がんに対する適応拡大が承認され、以後、進行膵がんに対するグローバルスタンダードとして位置付けられてきた。ゲムシタビンの膵がんに対する承認をきっかけに、進行膵がんを対象に多くの新薬の臨床試験が開始されている。

 これまでに最も多く行われた第3相試験は、新薬とゲムシタビンの併用療法をゲムシタビン単独療法と比較し、新薬による上乗せ効果を検討するタイプの試験であり、現在までに両群の生存期間に有意差を示しているのは、エルロチニブとゲムシタビン併用療法のみである。次に多く検討された第3相試験としては、ゲムシタビンを含まない新レジメンとゲムシタビン単独療法を比較し、新レジメンの優越性を検証する第3相試験であり、現在までに両群の生存期間に有意差を示しているのは、後述するFOLFIRINOX療法(本邦未承認)のみである。第3のタイプの第3相試験としては、ゲムシタビンを含まない新レジメンとゲムシタビン単独療法を比較し、新レジメンの非劣性を検証する第3相試験であり、現在までに統計学的に非劣性を証明したのは、TS-1単独療法のみである。

B. エルロチニブ

 エルロチニブ+ゲムシタビン併用療法は初めてゲムシタビン単独療法を生存期間において有意に上回ったレジメンということで2005年の米国臨床腫瘍学会総会(ASCO)で報告され、注目を集めたが、両者の生存期間の差は小さく、生存期間中央値の差はわずかに0.3カ月程度であった。本併用療法の効果が得られやすい患者群を事前に選別することができれば、それらの患者のみにこの治療法を適応するという方法も可能であるが、これまでのところ確実な報告はされていない。治療開始後の皮疹が出現する患者群では生存期間が長いことが知られている(図1)が、これらの患者群が治療効果によって生存期間を延長しているのかどうかは不明である。また、間質性肺炎の発現割合が海外第3相試験(4.5%)に比べて本邦第2相試験(8.5%)では高値であったため、日本人患者においては十分な注意が必要である。このエルロチニブは非小細胞肺がんにはすでに多数の患者に投与されており、1)喫煙歴あり、2)ECOG PS(全身状態)が2〜4、3)間質性肺疾患の合併または既往あり、4)肺感染症の合併または既往あり、の場合に間質性肺炎の発現が高率になることが報告されている。膵がん患者においてもこのような危険因子を有する場合は投与を回避した方がよいと考えられている。