公知申請による薬事承認を目指す
 ATL新規発症は毎年約1,000名で、このうち臨床試験の対象となる低悪性度ATL患者は100名程度。74名の被験者を登録するためには、全国の医師や患者の協力が欠かせない。塚崎氏は「高悪性度ATLには化学療法や同種骨髄移植を行うが、低悪性度では経過観察しかない。骨髄移植と経過観察の中間に位置してしかも信頼できる治療法が必要だと考えている」と語り全国から被験者を募集する意向だ。

 塚崎氏はIFNα/AZT療法の有用性が確認された段階で、製薬会社に公知申請を促し、薬事承認を目指す計画でいる。現在の計画では、2020年頃になる見込みだという。ATL対策は、大きな転機を迎えつつある。

HTLV-1/ATL医療小史
1990年代は研究・対策は冬の時代
HTLV-1特命チームが誕生した2010年
 HTLV-1は1981年に、当時の京大ウイルス研究所の日沼頼夫氏らにより日本で発見された。欧米ではエイズ(後天性免疫不全症候群)が注目され、エイズの原因であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)同様、ヒトに感染し発症するレトロウイルスとして世界的に注目された。母乳や輸血によって感染することが明らかになり、80年代に大きな社会問題になった。しかし、献血に抗体検査が導入され、しかも治療法にも目立った進展もなかったことから、その関心は感染地帯を除いて薄らいでいった。この流れを加速する役割を果たしたのが、旧厚生省の研究班がまとめた報告書だ。
 この報告書「成人T細胞白血病(ATL)の母子感染防止に関する研究班・平成2年度研究報告書」では、HTLV-1感染は「放置しても自然減少で消滅」するために「全国一律の検査や対策は必要ない」と明記された。しかし事実は正反対だった。報告書から20年以上経過しても、感染者数は推定108万名もおり、感染者が全国的に拡散しており、全国的な検査、対応が必要とされている。
 「おそらく母乳感染、血液感染ということで差別につながることを憂慮したためではないか」とこの報告書がまとめられた当時の事情に同情する声もあるが、この報告書によって、HTLV-1/ATL対策が研究や対策を停滞させたことは事実であると複数の専門家が指摘している。
 ATLが再び全国メディアを賑わせるのは、元宮城県知事で現慶應義塾大学教授の浅野史郎氏がATLを発症してからだ。ワイドショーのコメンテーターでもあった同氏の発症は、注目され、患者団体代表にも就任し、自らこの疾病対策を訴える広告塔となった。浅野氏は時の首相の菅直人氏にも働きかけ、2010年9月13日に首相官邸に「HTLV-1特命チーム」を発足させた。そして。同年10月5日に全国一律妊婦健診にHTLV-1抗体検査、12月20日に「HTLV-1総合対策」(表)を決定した。
 しかし、浅野効果一発で山が動いたというわけではない。研究費の先細りに危機感を持った研究者・専門医と患者団体が2000年から活動を開始した。「HTLV-1/ATL研究会」を2003年から開始、連続公開講座や教科書発行の活動を続けてきた。患者団体はHTLV-1が引き起こすATL以外の疾患であるHAM(HTLV-1関連脊椎症)の患者が中心になって患者会「アトムの会」を立ち上げ、2005年にはNPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」なども登場した。2009年には厚生労働省の局の壁を超えた横断的な組織「HTLV-1有識者会議」活動を開始した。こうした動きの後の「最後の一押しが浅野元知事だった」とある関係者は言う。