成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスHTLV-1の感染域が、従来の九州や四国など西日本や東北の一部から大都市を中心に全国的に拡大していることが厚生労働省の研究班の調査で明らかになった。感染への関心が薄かった関東では、キャリアの来院に戸惑う医療関係者も出てきた。有望な治療法も登場しており、感染予防や患者の救命に向け、いまこそ腰のすわった対応が求められている。


写真1 東京大学医科学研究所の内丸薫氏

 東京大学医科学研究所附属病院(東京都港区)ではHTLV-1キャリア専門外来/ATLセカンドオピニオン外来を開設している。無症候のキャリアや患者、その家族たちの相談に応じる業務に同院内科准教授で血液内科医の内丸薫氏があたってきた。「これまでにやって来た相談希望者の中の最も衝撃的」と同氏が振り返るのが、首都圏に住む女性のケースだ。

 献血をしたところ抗HTLV-1抗体陽性との通知を受け、自宅近くの総合病院に相談に出向いた。来院の目的を告げると医師は彼女を別室に通し、マスクの着用を指示。そして、彼女の目の前で保健所に電話をかけ、「こんな患者が来たので、すぐそちらに行ってもらう」と連絡。彼女は怖くなり、保健所にも病院にも行かなかった。インターネットでHTLV-1関連サイトを閲覧した知人の勧めで、内丸氏のHTLV-1キャリア専門外来を受診したという。

 HTLV-1からATLを発症するのは5%ほど。全国には現在108万人のキャリアが存在するが、発症しやすさのリスク因子は解明されておらず、キャリア全員が発症予備群である。

増大するキャリアとの遭遇
 内丸氏が経験したエピソードからいくつかの教訓を読み取ることができる。まず明らかになったのはHTLV-1の感染についてよく知らないナイーブな医師が関東には存在しているということだ。高浸淫地域とされている九州、四国や一部近畿、東北地方では、来院する患者の中にキャリアがいることは当たり前のことだ。母乳や輸血、性交などごく限られた経路でしか感染しないことはこれらの地域では医療関係者の間ではよく知られている。しかし、それ以外の地域ではそうではないようだ。内丸氏が受けた相談に中には、キャリアと判明した看護師を医師が「院内感染のリスクを聞いてくるように」と送り出したケースもあった。もちろん、看護師から患者に感染するという心配は無用だ。

 キャリアが来院したときに医療側が誤った対応を取ると、患者は医療機関との接触を避けるようになる。冒頭の女性キャリアは、医師が取った過剰な警戒行動から、「怖くなって」保健所はおろか病院にも行けなくなってしまった。医療側が適切な対応をしないとキャリアを医療から遠ざけることにつながる。

献血・妊婦健診のフォローは?
 彼女がキャリアであることを知ったきっかけが献血であったという点も象徴的だ。内丸氏らの調査では首都圏在住キャリアの44.6%が「献血により発見された」例だった。次が妊婦健診(22.7%)、配偶者・血縁者が感染者だったために自分も検査したというのが19.4%と続き、圧倒的に献血時の検査で発見されるケースが多い(図1)。同氏は「キャリアと判明することで多いのは献血時の検査。首都圏ではキャリアであると通知されても不安や疑問を感じた場合の体系的な相談体制が整えられていない」と語る。