もっともシンポジウムという性格上、角南氏、高松氏ともに対峙する姿を演出しただけであって、両者に根本的な考えの隔たりはないようだ。角南氏は「現実的には患者の状態をみながらケースバイケースで新薬を使うことになる」と話している。

 新規薬剤の3薬はいずれも多発性骨髄腫でCRを達成する力がある。では、CRの達成は生存期間を改善するかが問題になる。結論から言うと、現在までの臨床試験の結果は微妙だ。新規薬剤の中でも最も早期に登場し、多くの臨床試験が行われてきたサリドマイドだが、日本人患者で長期の生存が確保できるかどうか明確ではない。サリドマイドによりCR達成率、無増悪世生存期間(PFS)が向上するという報告が複数ある。ところが全生存期間(OS)は改善しないという報告も多い。奏効率やPFSが改善してもOSが改善されない。固型がん治療でもしばしば話題になるPFSとOSの不一致がここにもあるようだ。

 サリドマイドの限界は副作用による治療中断が多いことが一因だと高松氏は指摘する。感染症、血栓症が原因で治療を続けることができなくなる。

福岡大学病院の高松泰氏

 サリドマイドに次いで使用経験が豊富なボルテゾミブでは、VISTA試験などOSを改善するとの報告があるが、まだ本当の評価になっていないと高松氏はいう。「ボルテゾミブやレナリドミドは大変有望な薬剤、CR率を上げOSを改善する可能性はあると思う。現在は、これらの薬剤が本当にOSを改善できるかどうか、世界が見守っている段階」と同氏は語る。

移植非適応が新薬の主戦場
 ボルテゾミブをどのように使うか?角南氏は、「自家造血幹細胞移植ができなければボルテゾミブを使って寛解導入を行うことが望ましい」と語る。65〜75歳で全身状態がよければ、ボルテゾミブやVMP療法を使う。シクロホスファミド併用も考慮し、基本的にボルテゾミブ+αを考える。全身状態が悪ければ、例えばデキサメタゾンのみを使い、状態が改善すればボルテゾミブの追加などを考慮する。角南氏が日本血液学会学術集会で主張したように、まずCRを目指すが、そのために強力な治療を行うかどうかは、患者の年齢と体力を見極めた上で決断する。言い換えると、「うまく薬を使いながら可能ならばCRを目指す」(角南氏)。

 VISTA試験の結果が出て、移植非適応の未治療症例にはVMP療法が最適な治療法という印象を受けるが、意外なことに欧州と米国では薬剤の選択指向が異なる。角南氏によると、米国ではレナリドミド+デキサメタゾンが使われる場合が多い。対照的に欧州では、MP療法を基本として、新規薬剤を併用する傾向があり、ボルテゾミブは、MP療法と毒性がかぶらず、相乗効果が得られ、相性がよい。

 ボルテゾミブの有害事象の出現を目の前の患者にイメージすることの重要性を飯田氏は指摘する。「ボルテゾミブの末梢神経障害がある。初回治療でこの症状が出ると、再発後にも使用することが難しくなる。5%の患者に間質性肺炎が発症するが、そうなると入院が必要になる。環境の変化によってせん妄を引き起こしやすい高齢の患者では入院そのものがQOLを損なう要因になる。こうした症状の合併を考慮しながら初回治療に使う対象としてふさわしいかどうか、患者個人個人で見極めていく必要がある」と語っている。

多発性骨髄腫の治療は白血病に近づいた?
 「CRは最終ゴールではなく、マラソンでいえば通過点に過ぎない」と高松氏はいう。「最終ゴールは長期生存にある。全コースを見渡した治療方針を考慮する必要がある」。CRを目指さず、再発後に新規薬剤を使用して延命する方針をとっても結果的にOSは変わらないということになる可能性もある。

 最初に新規薬剤を使用して耐性になった患者では、後の治療にも耐性になるのではないかという懸念もある。こうした交差耐性が存在するのかどうか、まだ十分に明らかになっていない。

 新規薬剤が登場し、多発性骨髄腫も白血病のように強力な治療を投入してCRに持ち込むことの、是非を論じ合う時代になった。奏効率の高い新規薬剤の登場は、多発性骨髄腫の治療が白血病型に移行する契機となるかもしれない。「今後は白血病から多発性骨髄腫に入ってくる専門医が増えるはず」と高松氏は語っている。