医療費負担に耐えられなくなり、せっかく奏効していた治療の中断に追い込まれる患者が増えている。血液がんと小児がん患者の支援を続けてきたNPO法人血液情報広場・つばさ理事長の橋本明子氏は、2010年に慢性骨髄性白血病患者の経済的サポートを目的に「つばさ支援基金」を発足させ、今は助成対象を拡大して活動を続けている。深刻化する日本の医療費問題の渦中に飛び込んだ橋本氏に現在の心境と今後の展望を語ってもらった。 (聞き手:小崎丈太郎=本誌編集長)


橋本 明子(はしもと・あきこ)氏
NPO法人血液情報広場・つばさ理事長、J-CRSUがん電話情報センター相談主任、日本骨髄バンク(骨髄移植推進財団)常任理事。1986年に長男の慢性骨髄性白血病(CML)発症をきっかけに血液がんと小児がんの支援活動を開始。現在はこれら疾患に加え、CML以外の白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、再生不良性貧血の患者をも対象に支援活動を続けている( http://tsubasa-npo.org/)。

―つばさ支援基金を立ち上げた理由はやはりイマチニブ(商品名:グリベック)ですか。

橋本 そうですが、最初は自分が中心になって始めようという気はまったくなかったんです。2008年のリーマン・ショックの頃から、イマチニブを使っている慢性骨髄性白血病(CML)の患者さんに医療費を負担できなくなる方々が現れてきました。ずいぶん報道でも取り上げられましたが、治療を中断して再発してしまうケースも出てきました。将来を悲観して自殺したり、母親が娘を殺害してしまうという事件も起こりました。高額療養費制度を使っての毎月4〜8万円程度の薬剤費の負担にも耐えられないという方がたくさんいるんです。

 報道はいずれも、イマチニブを販売するノバルティスファーマにとって厳しかったと思います。私は日頃、NPO法人血液情報広場・つばさの活動を通して、製薬会社の方々と接する機会が多いのですが、当時のノバルティスファーマの社員さんたちから「良い薬を提供できているとがんばって仕事してきましたが、このところの経済的に追い詰められた患者さんたちの報道には心が痛みます」と悩んでいる声を聞きました。やがて彼らから「自分たちに何か社会に対してできることはないか」と相談されるようになったんです。

―何と答えたのですか。

橋本 単純に「やったらいいですよ。困っている患者さんたちにお金を配っちゃえば」って言ったんです。

―ノバルティスが直接、患者にお金を配るということですか。

橋本 しかし、製薬会社が直接患者さんにコンタクトすることは法的に禁止されています。ましてお金を渡すことは論外かも知れません。では、医師に何か研究班を作ってもらって配ることはできるのではないかと考えて、いつも協力いただいている先生方に「研究として、患者さんの経済支援をする」ことを考えてもらえないか、相談して歩きました。でも、それは手順や時間が膨大に必要だと分かりました。それにお会いした医師の方々の多くから、「会社が薬価を下げればいいではないか」とも言われました。でも、製薬会社が自発的に薬価を下げることは無理です。そしたら、ある先生から「橋本さんが実行するならば応援しますよ」といわれたんです。

―そのときはどんな気持ちでした。

橋本 エーっ、とんでもない!と思いました。でも、私がやることで月100人の患者さんが助かるならばやらないといけないと気持ちを切り替えました。