全国のがん治療に参加する薬剤師らが中心になって制吐剤の有効性を検証する臨床研究を進めている。医師が中心となる従来の臨床研究は新規な治療法の有効性に注目したものが多かったが、薬剤師らの関心は化学療法を安全に進めることに向かっている。ガイドラインに反映されるような質の高い研究を行うという。医学上のエビデンス構築に新しいプレーヤーが参入してきた。


静岡県立静岡がんセンター薬剤部の鈴木賢一氏。

 全国の薬剤師が中心になって制吐剤のパロノセトロンとグラニセトロンとの有効性を比較する臨床研究が始まっている。この研究の成果が上がれば、今後薬剤師による臨床研究が増えていく可能性がある。

 この臨床研究の名称はTRIPLE試験(Trial of granisetron versus palonosetron for emesis induced by HEC)。高度催吐性化学療法(HEC)などに使われる新規制吐剤であるパロノセトロンと、従来臨床現場で長く使用されてきた標準的な制吐剤であるグラニセトロンの嘔吐制御効果を比較する試験である。いずれも5HT3受容体拮抗薬(5HT3RA)だが、パロノセトロンは長時間作用型で、悪心嘔吐の管理がより容易になると期待されている。

 一方で、5HT3RAとは作用機序が異なるNK1受容体拮抗剤であるアプレピタントも導入され、HECでは5HT3RAとNK1阻害剤とデキサメタゾン(DEX)の3剤併用が推奨されている(表参照)。パロノセトロンとグラニセトロンの5HT3RA同しの比較臨床試験はあったが、NK1阻害剤を併用した上で両剤の有効性を比較した臨床試験は実施されていなかった。そこで、静岡県立静岡がんセンターの薬剤師で、がん指導薬剤師の資格を持つ鈴木賢一氏が中心となり、全国のがん診療に携わる薬剤師に呼びかけ、臨床研究を立ち上げた。

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殺到した参加希望
 今回のTRIPLE試験の計画を学会などの場で公表し、全国の薬剤師らに参加を呼びかけたところ、予想を超える50施設から参加希望があった。これら希望者たちからは、「こういう計画に参加したかった」という声が多数上がったという。最終的に、体制が整備されていた25施設が参加、640例の登録を目標に臨床研究が始まった。アプレピタントとDEXにパロノセトロン0.75mgを併用する群と、グラニセトロン1mgを併用する群の2群に無作為に分け、嘔吐に対する完全抑制率を主要評価項目とした(別掲)。運営事務局は財団法人しずおか産業創造機構の中のファルマバレーセンター(http://www.fuji-pvc.jp/、本部は静岡がんセンター敷地内にある)に置かれた。研究の結果がまとまるまでに2年ほどを要するとみられる。

 医師が行う臨床研究と薬剤師が行う臨床研究との本質的な違いについて、鈴木氏は「医師はまず薬剤の有効性を最優先に考える傾向にあるが、薬剤師はまず安全性を考える。支持療法の有効性の検証には薬剤師が中心になっていきたい」と語る。

 臨床研究を主導するのは初体験という薬剤師も多く、事務局には症例報告書(CRF)の記入、患者の同意の取得、院内倫理委員会(IRB)における質疑応答に関わる細かな質問などが相次ぎ寄せられているという。「全国規模の臨床研究はゼロからのスタート。計画を完遂、論文化し、ガイドラインの改定にも反映されるような結果を出したい」と鈴木氏は語っている。

TRIPLE試験の概要
●主要評価項目
 シスプラチン投与開始120時間以内の嘔吐完全抑制の可否
●副次的評価項目
1.シスプラチン投与開始から120時間以内における全期間ならびに24時間ごとの期間における嘔吐性事象の完全抑制率
2.シスプラチン投与開始から120時間以内における全期間ならびに24時間ごとの期間における悪心嘔吐総制御率
3.治療成功期間
4.有害事象
●治療レジメン
 選択規準を満たし、かつ除外規準に抵触しない対象患者は以下の2つの治療群のいずれかにランダムに割付けられる。
A群(対照群)
 day1:デキサメタゾン9.9mg+イメンド125 mg+カイトリル注1mg
 day2:デキサメタゾン6.6mg+イメンド80mg
 day3:デキサメタゾン6.6mg+イメンド80mg
 day4:デキサメタゾン6.6mg
B群(試験群)
 day1:デキサメタゾン9.9mg+イメンド125 mg+アロキシ静注0.75mg
 day2:デキサメタゾン6.6mg+イメンド80mg
 day3:デキサメタゾン6.6mg+イメンド80mg
 day4:デキサメタゾン6.6mg