国立がん研究センター東病院臨床開発センター長の大津敦氏。Phase 1センター長にも就任。

 試験における治療中止の原因の91.7%は病勢進行(PD)。休薬や治療法の見直しを余儀なくされるGrade3以上の有害事象は、好中球減少50.4%、白血球減少28.3%、貧血16.8%、リンパ球減少9.7%など。非血液毒性で目立った有害事象は少なく、Grade3以上のものとしては疲労感6.2%、下痢6.2%。有害事象による中止は4.6%だった。

グローバル第3相試験の結果に期待
 進行再発大腸がんの化学療法は、5-FU、CPT-11、オキサリプラチン、ベバシズマブ、抗EGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブ)の5種類がキードラッグとなっている。抗EGFR抗体が日本国内で認められた際には、「大腸がんに限りドラッグラグは解消した」といわれた。その後、幸いにしてドラッグラグ解消状態は継続しているが、それは新規の薬剤が大腸がん分野に登場していないという事情による。世界的に、これら5大治療薬に続く新薬登場が待たれている。

 今回の臨床試験は、2種以上の前治療が無効となった“3rd line以降”という厳しい条件下で行われた。新薬を単剤で臨床評価するためにはこの位置づけしかなかったが、それでもHRは0.56という良好な結果を出し、非常に有望な治療薬候補であることを示した。

 一方で、昨年、今年と米国臨床腫瘍学会(ASCO)で注目されたトリプルネガティブ乳がんに対するPARP阻害剤の例もあるように、第2相試験で非常に有望なデータが出ても、第3相試験で暗転する可能性もある。

 問題はどのような第3相試験を組むかだ。山崎氏は「世界に患者が分布する大腸がんでは、国際共同第3相試験(グローバル第3相試験)を計画することが最良の選択肢」と語った。「症例の集積も早く、適切な使用法を見いだす作業も世界規模で進めることができれば、より短期間に試験を完了させることができる。世界で認知されるためにも、単剤できちんとした第3相試験を行って第2相試験の結果を確認する必要がある」と力説する。そして「個人的には結果が楽しみでドキドキする」と付け加える。そして実際、グローバル第3相試験が計画されている。

日米欧によるグローバル第3相試験、2012年に開始へ
 「転移性大腸がんを対象としたTAS-102のグローバル第3相試験は、2012年にスタートすることが既に決定している」と語るのは、国立がん研究センター東病院臨床開発センター長の大津敦氏(第9回日本臨床腫瘍学会学術集会会長)だ。既に6月に米国シカゴ市で開催されたASCO総会の折、日米欧の大腸がん専門家が集まり、TAS-102のグローバル第3相試験を実施することが決まったという。同時にprincipal investigator(PI)を大津氏、米国と欧州の専門家1名ずつの計3名が務めることも決まった。世界3地域で約600名を登録する予定だ。米国ではこの試験に参加するために、規制当局である米国食品医薬品局(FDA)の要請に従い、第1相試験が開始されている。

 ところで、TAS-102の臨床試験が米国で行われるのはこれが初めてではない。開発した大鵬薬品工業は、1999年に米国内で第1相試験を胃がんを対象に実施している。同社はこの後、4つの第1相試験と、2006年から08年にかけて第2相試験を行った。合計9年にわたる試行錯誤にも関わらず期待した結果を得ることができなかった。

 一方、日本国内では06年から08年にかけて国立がんセンター東病院(当時)と静岡県立静岡がんセンターが21例を対象に第1相試験を実施している。米国での試験で採用された用量50mg/m2以下では、病勢コントロール率は33.3%に留まっていたが、60mg/m2では100%、70mg/m2で66.7%、80mg/m2で52.3%となった。60mg/m2以上の症例ではSD以上の効果が出て、PFSも明らかに長くなった。骨髄抑制以外の毒性も軽微なものだった。「米国の試験よりも用量を増やせば有効な治療薬になるのではないか」と、この第1相試験に参加した医師らは感じた。

 そこで始まったのが、今回報告された第2相試験だった。米国でネガティブとなった胃がんを避け、大腸がんに対する開発を決定した。

「オキサリプラチンの逆バージョンを行く」
 今回の無作為化比較第2相試験を主導した大津氏には、期するところがあった。TAS-102の米国内第1相試験の交渉がメーカーと米国Texas大学M.D. Andersonがんセンター(MDACC)との間で始まった1997年に、大津氏はそこに留学していたのだ。TAS-102に関わらず、日本で合成された化合物の第1相試験が日本国内の医療機関を素通りして米国で開始される例は珍しくなかった。「当時MDACCの消化器グループの第1相試験中の薬剤の半数が日本から持ち込まれたものだった」と振り返る。当時、世界的に導入されたICH-GCPを日本国内で実践することは困難であり、国内企業も米国内の臨床開発を優先した。大津氏は、日本の国内企業からも相手にされない日本の臨床試験体制の未熟さを目の当たりにしていたことになる。

 目標症例数である162例は約7カ月と異例の速さで登録された。大津氏は試験に参加した医師らに「オキサリプラチンの逆バージョンを目指そう」と呼びかけた。オキサリプラチンは日本で創生されたが、毒性が強く実用化できなかった。しかし、その後海外で評価され、日本国内に逆輸入された経歴を持つ。対照的に“米国帰り”のTAS-102を日本国内で正しく評価して、欧米を巻き込んだ無作為化比較試験をやろうというわけだ。

 グローバル第3相試験は日米欧の3極で実施されるが、中心は日本だ。「日本が世界の抗がん剤や分子標的治療薬の開発に今後遅れをとらないようになるためには、この試験を成功させる必要がある」と意気込む。