乳がんなどが進行し、がん性皮膚潰瘍を発症するケースが珍しくない。抗菌薬メトロニダゾール(MTZ)の外用剤を院内製剤として調製し、患者に適用している医療機関が多いが、昨年、日本病院薬剤師会が市販化に向けて動き出し、最近になって外資系の製薬会社が日本国内への導入に向けて活動を始めている。


 長野県の諏訪湖の湖畔に建つ諏訪赤十字病院─。同院では数年前から、乳がんのがん性皮膚潰瘍による悪臭除去を目的とし、薬剤部で院内製剤としてメトロニダゾール(MTZ)外用剤の調製を行ってきた。現在では、乳がん患者での使用経験を基に、幅広いがん種の悪臭に対して使用している。同院薬剤部の松原ちはる氏が、「最も印象に残る使用例」と語るのは、2000年秋初診の40歳代後半の女性患者だ。

MTZ外用剤の評価に薬剤師ならではのこだわりを見せた昭和薬科大学講師の渡部一宏氏。

 細胞診でclass2、乳がんを疑わせたが、その後の生検や治療を何年も拒否し続けた。腫瘤の増大が皮膚を徐々に破壊し、崩壊、新たな増殖を繰り返しながらの患部出血は頻繁の輸血に来院する程のものとなり、かなりの悪臭を伴っていた。発症してから7年半、在宅に耐えられなくなった末の救急入院後は、「聖路加国際病院 薬剤部の渡部一宏氏のアドバイスを参考にし、両胸部の皮膚潰瘍部にMTZ外用剤を塗布し、滲出液の吸収を目的に紙おむつを当て、毎日数回取り替える処置を行った」(松原氏)。

 悪臭は個室内ではスタッフがマスクなしではいられないレベルとなり、消臭剤も設置。ようやく薬物療法を受け入れたため、体調を見ながらFEC(5-FU+エピルビシン+シクロホスファミド)4コース→パクリタキセルの順で施行、FEC2コース程終了した時点で、患部は大幅に崩れ落ち、下からきれいな肉芽が見え、悪臭も微量となる奇跡的回復を見せた。

 この患者は2009年に死去したが、MTZ外用剤の有用性を印象づけた症例だった。

乳がん患者の4%の頻度で発症
 がん性皮膚潰瘍は腫瘍が皮膚に浸潤もしくは転移することによって出現する潰瘍病変だ。その頻度は乳がんで高く約4%の患者で見られるという報告がある(2005年全国乳癌患者登録報告、日本乳癌学会)。その症状は、炎症や出血による痛みや滲出液を伴う。同時に、嫌気性細菌感染による強い悪臭(がん性悪臭)を放つことから、患者のQOL(生活の質)を低下させる原因にもなる(写真1、2)。

 こうした症状に対して、世界保健機関(WHO)や米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、MTZ外用剤を推奨してきた。ところが、日本ではMTZ外用剤が承認されていないことから、「各施設において病院薬局製剤としてMTZ外用剤を薬剤師が調製しているのが現状である」と語るのは、現在は昭和薬科大学医療薬学教育研究センター講師となった渡部氏。渡部氏は、聖路加国際病院薬剤部に在籍時からMTZ外用剤の調製およびその適用に携わっており、「その調製量は、多い時で1カ月あたり20〜30kgというペースだった」と振り返る。