米国Pfizer社が5月17日、非小細胞肺がん治療薬の経口anaplastic lymphoma kinase(ALK)阻害剤クリゾチニブ(Crizotinib、PF-02341066)について、日本と米国で承認申請を行ったと発表した。これの意味するところは「肺がんの治療薬が1つ増える」ことに留まらない。分子標的治療薬によるがん治療の新時代の到来を告げるもの、もしかすると大規模無作為化比較試験(RCT)すらいらなくなるかもしれない。


 Pfizer社の発表によると、米国食品医薬品局(FDA)はクリゾチニブの新薬承認申請(NDA)を5月17日に受理し、同時に希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)に指定し、優先審査の対象と決定した。同社は同時に、日本の厚生労働省にも承認申請を行った。申請した適応症はいずれも「ALK陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)の治療」。同社のプレスリリースの中で、同社のオンコロジー・ビジネス・ユニットのプレジデント兼ジェネラル・マネージャーであるGarry Nicholson氏は、「ALK陽性肺がん患者における世界的な臨床試験の開始からわずか3年で米国と日本における新薬承認申請を実現できた。これまでの臨床試験の結果から、クリゾチニブが承認されることで、ALK陽性進行NSCLCの治療パラダイムが変わる可能性がある」と胸をはった。ALK陽性進行NSCLCに限定したコメントになっているが、実はこのクリゾチニブの開発は、がん種を超えた新薬の開発の新しいモデルになり得ると多くの専門家が注目している。

 クリゾチニブはもともとALKとは別のがん遺伝子であるc-metの阻害剤として開発が先行していた。その後のALK陽性NSCLCの研究の進展を受けて、Pfizer社はALK活性阻害剤としての開発に方針を転換した。2010年のNew England Journal of Medicine誌(NEJM)に発表された報告1)では、ALK陽性進行NSCLC患者82例のうち47例(57%)に完全奏効または部分奏効が認められ、27例(33%)が病状安定と評価された(図2)。

NSCLC全体の5%に該当
 がんが遺伝子変異に由来する疾患であることが明らかになるにつれて、患者をこの遺伝子変異の性質によって分類し、それに応じた治療を提供する個別化医療の重要性が提唱されてきた。しかし、一方で疾患の細分化に伴う医薬品市場の断片化の懸念があったことから、製薬業界では個別化医療をもろ手を挙げて歓迎するムードにはなかった。EML4-ALK遺伝子を保有しているのは50歳以下のNSCLC患者では30%だが、高齢者が多いNSCLC患者全体では5%に過ぎない。前出のNEJM誌の論文でも、82名のALK陽性患者を確保するため1,500名のNSCLC患者をスクリーニングしたと報告されている。

 このような新タイプの薬には、その特性に応じた臨床開発と薬事審査の必要性も同時に指摘されてきた。クリゾチニブ開発の最も大きな特徴は、希少疾患の治療薬に指定され、優遇措置を得ることができる扱いになったことだ。国立がん研究センター東病院呼吸器科医長の久保田馨氏は、「今後肺がんの5大がんにおいて細分化が進展すれば、多くの薬剤がこうしたオーファンドラッグになり得る」ことが画期的と指摘する。