膵臓がん治療の課題は、早期診断と治療の個別化にある。膵臓がんの病理学の世界的権威として知られるHruban氏は、「網羅的に腫瘍の遺伝子を解析することによって、これら膵臓がんの課題が克服できる」と指摘する。4月に横浜で開催された第100回日本病理学会総会の講演のために、震災禍にひるむことなく来日したHruban氏に膵臓がん治療の新戦略を聞いた。 (聞き手:小崎丈太郎=本誌編集長)


Ralph H.Hruban氏
米国Johns Hopkins大学医学校病理学・腫瘍学教授。The Sol Goldman Pancreatic Cancer Research Center所長。1994年に家族性膵臓がん登録機構を立ち上げ、膵臓がんの遺伝的背景の解明に乗り出し、1999年には膵臓がんの前駆病変であるPanINの概念を提唱した。執筆論文は500本を超え、著書は5冊、執筆した章は100にのぼる。膵臓がんの研究分野で世界的に最も知られた研究者の1人である。

─膵臓がんは、発見時点では手遅れで、手術も化学療法も適応にならないというケースが多いがんです。

Ralph H.Hruban  膵臓がん患者の生存期間を延長するために、最も重要なことは早期発見です。大腸がんでは大腸ポリープの段階で発見することができるようになり、大腸がんへの移行を予防する、もしくは大腸がんを治癒させることが可能になりました。それでは、膵臓がんの早期発見を実現するためには何が必要でしょうか。

 第1段階は、膵臓がんが発生する部位の早期病変を検出することです。現在、そのような前駆病変として3種類が知られています。1つは膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)、2つめは膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、3つめが膵粘液性嚢胞腫瘍(MCN)です(写真1〜4)。これらは、それぞれ別々の経路によって膵臓がんとなります。我々はこれら3つのタイプを理解することに力を注いでいます。

 PanINは大変、小さな病変で、ピンの頭ほどしかありません。1世紀前にドイツの医師によって報告されていますので、我々が発見者というわけではありませんが、我々の業績は、このPanINが膵臓がんと共通の遺伝子変化を持っていることを明らかにした点にあります。その結果、PanINの発生部位に膵臓がんが発生することが明らかになりました。これは早期発見に大変重要な手がかりになるはずです。