D:がんワクチン投与直後、または早期の病勢進行・再発
 「ワクチン接種された患者では遅発性の効果が期待される。即ち生物学的活性やワクチンの効果発現前に初期ワクチン投与直後患者は病勢の進行を経験することがある」と記載されている。この記載はワクチン投与後、腫瘍の増悪を認めても増悪とは限らないため、ワクチン投与を続けることを示唆したものである。しかし増悪を治療効果発現前の一時的なものとみなすか、本当の増悪と判断するかは難しい判断を迫られる。実際増悪を認めてもペプチドワクチンを投与し続ける基準はないが、その条件として、「(1)病勢進行・再発を除き、臨床試験プロトコールの全ての登録適格基準に適合する、(2)DLTが観察されておらず、全ての毒性は登録時の適格基準を満たすベースラインのレベルまで改善されている、(3)患者は病勢進行/再発前と同じ用量とスケジュールで治療を受ける」、と記載されている。また臨床試験の説明同意文書に病勢進行があってもペプチドワクチン投与を続ける記載があり、患者がそれに同意している必要性がある。

E:非臨床試験による臨床試験における効果副作用の予測
 ヒトがんワクチンを用い、動物で毒性及び効果を評価することによって至適投与量を推定することは理論的にも現実的にも不可能と思われる。ガイダンスには「臨床試験実施申請における臨床開始用量と用量設定を決定するためにスポンサーは科学的データに基づいて妥当性を証明することが重要」と記載されている。

 これは難しい注文といえる。ガイダンスでは臨床試験以外での当該ワクチン使用時の安全性と活性のデータ、及び他の類似のワクチンの安全性と活性のデータを参考にして用量を決定する可能性を示唆している。これが適切とも思えないがいずれにしても山勘で決めざるを得ない。

F:増量試験
 ガイダンスには「多くのがんワクチン臨床試験において『3+3デザイン』が用いられてきたが、その結果非常に稀な状況を除き最大耐性量(MTD)は認められなかった。(中略)早期がんワクチン臨床試験を行う上で『3+3デザイン』(抗悪性腫瘍薬の第I相用量増量試験で用いられるデザインで最初の用量に3名の患者を登録し、用量制限毒性(DLT)がみられない場合は、次の用量へ増量、1/3にDLTを認めた場合はさらに3名の患者を追加、2/6名以上にDLTを認めた場合、この量を最大耐量(MTD)とする)が最も適した手法とはいえず、(中略)考えられる最も高い用量は毒性よりも製造上または投与部位の解剖学的な問題により規定される可能性を示している。従って用量増加に関する情報収集には『3+3デザイン』に代わる臨床試験デザインによるアプローチを考慮することを推奨する」と記載されている。

 これは『3+3デザイン』を必ずしも否定したものではない。もちろん、殺細胞性抗悪性腫瘍薬や分子標的治療薬の早期臨床試験においても『3+3デザイン』の統計学的根拠は乏しい。やむを得ず用いていることの方が多い。仮に他の用量増加のデザインをとった時、何をもって最終用量、あるいは適用量(それを検出する手段)とするかを明確にする必要がある。もちろん、ガイダンスに記載されているようにDLTの定義、治療の終了基準、臨床試験の終了基準を臨床試験の開始前に明確にしておくと共に、GO/NO GO decisionの基準を十分討論の上決めておく必要がある。

 臨床試験であるにもかかわらず、得られた結果を自分の都合の良いように解釈し、効くか効かないか分からない治療のプロトコールに症例を追加することは患者にとっても大きなマイナスとなっていることを認識することが重要である。

G:遅延型ワクチンの効果とその解析方法
 ガイダンスには次のような記載がある。「がんワクチンを投与された患者はしばしば早期には腫瘍が増殖しその後引き続いて抗腫瘍反応が起こる場合がある。(中略)後期臨床試験で色々な可能性を考慮に入れられるよう、結果に対する特別な定義をした上で統計解析を計画する事を推奨する」

 即ち、がんワクチンのOS曲線の評価の場合、無作為化の時点からの生存期間を評価するのではなく、ワクチン効果の出現後、即ち対照群との生存曲線の分離が始まった時点からの解析の計画を示唆している(Harmington- Fleming 検定)。実際、このような解析方法を記載しているプロトコールもあると聞き及んでいるが、臨床試験としては正しいとはいえない。

 何故なら(1)他の殺細胞性抗悪性腫瘍薬、分子標的治療薬でも同じような生存曲線を認める。交差する場合もある、(2)どの時点から生存曲線が分離し始めるかについての基礎的実験の根拠もない、(3)実際の生存曲線が分離し始める時点は、がんワクチンの臨床試験では様々(この差の理由も説明できない)であり、誰がどう決めるのかについてのコンセンサスはない、(4)Harmington- Fleming検定が妥当とするコンセンサスはない。以上の理由から、がんワクチン効果はCOXモデルを用い、無作為化からイベントまでの期間で評価すべきと思われる。