国立がん研究センター中央病院消化器内科長の奥坂拓志氏

 国立がん研究センター中央病院消化器内科長の奥坂拓志氏は「データを見る限り、膵臓がんの新しい標準治療といってもおかしくない」と語る。昭和大学の佐藤氏はFOLFIRINOXがGEMを使わない治療である点に注目している。「GEMを使わないということの治療上のメリットは大きい。1st lineでFOLFIRINOXを行って、failureになってもまだGEMを使う余地が残されていることを意味する。2st lineにGEMを使うことができれば、確実に延命に貢献することができる」。

イリノテカン180mg/m2の意味
 FOLIFIRINOXの治験を日本国内で着手する場合、最初に注意を要する点は、オキサリプラチンとイリノテカンの2剤が膵臓がんに効能がないというところだ。もし、現在日本でFOLIFIRINOXを施行すると適応外使用となる。大腸がんで承認されたオキサリプラチン使用がFOLFOXというレジメンに限定されたように、膵臓がんについても、FOLFIRINOXに特化する形で2剤が膵臓がんの適応が検討されることになると考えられる。このとき、問題になるのはやはり副作用だ。大腸がんでもFOLIFIRINOXの4剤を使用するレジメンが一部で行われているが、副作用が強く普及は難しいといわれている。イリノテカンの下痢とオキサリプラチンの末梢神経障害が同時に出現する可能性がある。

 イリノテカンは過去に2度、膵臓がんへの効能追加が試みられたことがあったが、果たさなかった。従ってFOLFIRINOXはイリノテカンにとって捲土重来の機会であるわけだ。そこで改めて注目されているのが、ASCO2010で発表されたFOLFIRINOX中のイリノテカンの用量とこれまで日本国内で認められた最大用量のとの違いだ。イリノテカンは日本では1日1回150mg/m2までしか認められていないが、ASCOでの発表でされたFOLFIRINOXのイリノテカンの用量は180mg/m2となっている。

 一般的に膵臓がんの患者は、大腸がん患者よりも体力が低下していて、肝機能も低下し、肝不全となっていることも多い。出血や腸閉塞などの合併症も珍しくない。大腸がんでも普及していない強いレジメンをより脆弱な患者が多い膵臓がん治療へ導入するからには、より慎重な対応が求められることは当然といえる。

 それでも奥坂氏は、イリノテカンの用量はフランス・グループに準ずるべきだと指摘する。「日本だけ減量すると、フランスのデータと比較することができなくなるので、日本国内でも180mg/m2で実施することになる。強い有害事象が出現した場合は減量することになるが、試験着手までに減量基準を定めることになる」と同氏は語る。

 患者に応じて減量を考慮する局面も出てくるであろうが、膵臓がんは乏血性のがんで、血管を介して薬剤が腫瘍に到達しにくいがんであることから、減量すると、効果が顕著に低下する可能性もある。減量する場合の方法自体も重視されるだろう。

 奥坂氏が最も警戒するのは骨髄抑制だという。ASCO2010での発表によると、FOLFIRINOX群の患者のうち、42.5%に顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与されている。GEM群では5.3%に過ぎなかった。「通常、GEMを使用してもG-CSFの投与が必要になるほどの骨髄抑制はほとんど経験しない」(大川氏)。40%以上がG-CSFの投与が必要になる治療は、多くの膵臓がん専門医にとっては未体験だ。

患者のPSは“-1”が理想?
 強い副作用の出現が確実視されるレジメンである以上、その治療の潜在的の効力を十分に享受できる患者の選択が大きな意義を持つことになりそうだ。ASCO2010の発表では、患者年齢は61歳と高齢者がんの印象が強い膵臓がんの世界では、比較的若手の患者が多く登録されていることをうかがわせる(表4)。