2010年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)などで注目された切除不能進行膵臓がんの治療レジメンFOLFIRINOX。大腸がんのFOLFOXとFOLFIRIを合わせたこのレジメンは、現在の標準治療であるゲムシタビン単剤を奏効率、全生存期間で大きく上回り、膵臓がんの化学療法に光明を与えた。でも喜んでばかりはいられない。同様のレジメンが、副作用が強いために本家の大腸がん治療への導入が見送られた過去を持つのだ。膵臓がんのプロたちは、このレジメンを使いこなすことができるだろうか。


神奈川県立がんセンター消化器内科・肝胆膵部長の大川伸一氏

 年に1回、世界のがん医療関係者の注目の的になる米国臨床腫瘍学会(ASCO)の会場が、時折ロックコンサート顔負けの拍手と歓声に包まれることがある。生存期間を大幅に延長するなど画期的な成績が報告された場合にそうした光景が見られるのだが、2010年ではそれが膵臓がんの会場で起こった。フランスCentre Alexis VauturinのConroy氏らが、PRODGE4/ACCORD11/0402試験の結果を報告したときだ。この試験ではゲムシタビン(GEM)単剤に対して、GEM抜きのFOLFIRINOX(5-FU+ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチン)という4剤併用レジメンが全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)で大幅に上回ったという。口演が終わるや、聴衆たちは一斉に立ち上がり、拍手と賞賛の声を送り始めた。このスタンディング・オベーションは数分間にわたって続いた。

 日本の膵臓がん治療の第一人者の1人、神奈川県立がんセンター消化器内科・肝胆膵部長の大川伸一氏が、この発表に触れたときの感想は「フランス人らしいなあ」というものだった。「フランスの医師らは比較的強いレジメンを好んで使う傾向にある。さらに、発表者らは膵臓がんの専門家ではなく、腫瘍内科医を中心としたグループ。膵臓がんの専門家だと、むしろ発想し難いレジメンだった思う」。

昭和大学医学部腫瘍内科准教授・診療科長の佐藤温氏

 昭和大学医学部腫瘍内科准教授・診療科長の佐藤温氏も、「驚いた」日本の専門家の1人だ。「これまでも切除不能進行膵臓がん治療はより副作用が比較的少ない薬剤を使って延命の可能性を探ることが基本的なスタイルだった。GEMやTS-1が治療薬として生き残ってきた背景にもそうした事情がある。強い薬剤を高用量でドンと使うというのはこれまでの日本にはない発想で、まさに驚きのレジメンだった」。

 過去10年間、GEMを主に進められてきた膵臓がんの化学療法に新しい光明が差し始めたことは確かなようだ。そこで気になるのは、“日本の膵臓がん医療に導入できるのかどうか”ということだ。効果は期待できるが、間違いなく副作用も強い。GEMが比較的副作用が軽く、使いやすい抗がん剤という評価が定着していることから、余計にそのハードルは高く見える。FOLFIRINOXの主要薬剤を擁するヤクルト本社が日本での治験を計画しているが、ジレンマを克服し、日本の膵臓がん診療に定着させるためにはどのような体制で臨むべきなのだろうか。

FOLFOX+FOLFIRI
 PRODGE4/ACCORD11/0402試験のFOLFIRINOXのレジメンは表1のようになる。2週間を1サイクルとして、オキサリプラチン85mg/m2、ロイコボリン400mg/m2、イリノテカン180mg/m2、5-FU 400mg/m2のbolus投与、5-FU2400mg/m2の46時間持続点滴投与を行う。大腸がんの標準レジメンであるFOLFOX(5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチン)とFOLFIRI(5-FU +ロイコボリン+イリノテカン)を融合させた形だ。ちなみに対照となったGEMは1000mg/m2を最初の8週もうち7週は毎週投与し、その後は4週のうち3週を毎週投与するという一般的な方法で使用された。

 主要評価項目はOSで、FORLFIRINOX群とGEM群には転移性膵臓がん患者171名づつが割り付けられたが、中間解析でFOLFIRINOX群の有効性が確認されたことから登録中止(有効中止)となった。なにしろ、OS中央値はFOLFIRINOX群が11カ月(95%信頼区間:9-13.1)、GEM群は6.8カ月(同:5.5-7.6)となり、FOLFINOX群の大幅な生存期間の延長が見られた(表2、表3)。