それによると生存期間中央値はEGFR-TKI継続群で191日(223.2±148.4)、中止群は62日(98.9±101.9)であったという。生存期間の違いの原因を調べるために性別や年齢、全身状態(PS)、喫煙歴などの各因子を重回帰分析すると治療継続のみに有意差が認められた。症例数も少なくレトロスペクティブな解析ではあるが、PDになった後の治療継続が生存期間を改善する可能性がある。結果をまとめたグループは「継続投与の選択は患者側の意志が強く現れており、有害事象が少なく、生存期間の延長が認められるのであれば、標準的な治療選択となる可能性が考えられた。近い将来、緩和ケアにおける化学療法の位置づけを見直す必要があると思われる」と結論している。

写真5 第83回総会会長の坂田優氏(向かって左、三沢市立三沢病院院長)と2012年の第84回総会会長に決まった辻仲利政氏(国立病院大阪医療センター外科部長)。

 佐々木氏は「分子標的治療薬の開発で、希望する人には死が近くとも、悪化しても、全身状態が悪くても、さらに続けて治療することが新たなエビデンスとして成立する可能性がある」と指摘し、「いつ治療をやめるべきかの議論も違ってくるのではないか」と述べた。

 ある参加者からは、「緩和ケア病棟に患者を紹介すると、そこの担当医師から『もう化学療法は行わないという同意を取った上で送ってほしい』と要望されることが少なくない。その認識は誤っていると見ていいか」という質問も出た。

 “切れ目のない治療”というと、治療を終えてシームレスに緩和に移行することを想定しがちだが、「骨髄抑制などの負担が少ない分子標的治療薬を使い、少しでも長く生きて、次の新しい治療法の登場を待ちたいという気持ちも尊重すべき」と佐々木氏は言う。また緩和ケアの診療報酬が化学療法を行うことまで考慮していないという制度の問題も指摘された。緩和ケアの中で進めるべき化学療法は何か、さらにそれを円滑に行うために整えておくべき体制整備のあり方については、緩和医療の専門家を含めた議論を深める必要もありそうだ。

末期医療の啓発も必要
 佐々木氏の提言を緩和医療の専門家はどのように見るのか。

 佐々木氏の講演で司会を務めた埼玉医科大学国際医療センター緩和医療科診療科長で化学療法にも詳しい奈良林至氏は、「緩和病棟に紹介される患者さんの中には、延命効果のエビデンスがある標準的治療は終えても全身状態が良好な患者さんがいることは確か。そうした人々が希望するのであれば、化学療法の実施を一律に否定することはできないかもしれない」と佐々木氏の考えに一定の理解を示す。しかし、「分子標的治療薬といっても副作用はある。そのような治療を化学療法が専門ではない医師やスタッフだけで行うことには無理がある。仮にある程度の奏効が期待されたとしても、現時点では“治癒しない”という前提で治療を行う必要があり、それを事前に患者さんと合意した上で進めることが絶対条件になる。そうした多くの条件を考慮することなく、緩和病棟でも化学療法ができるという考えが広まることは、患者さんや家族の方々をミスリードすることになる」と極めて慎重な考えを示した。

 国民、患者の多くは最後まで「闘病」に期待をかける。一方で、緩和病棟の医療はエビデンスがある延命治療がなくなった後の症状緩和に徹するという現実もある。緩和病棟への移行前の多くの患者、家族にはその現実が受け止められていないことも考えられる。最も急がれるべきは、国民に対する末期医療の啓発であるのかもしれない。

Stage4胃がんには化学療法だけで十分か
 “緩和に積極的な化学療法は不要”という定説に対し疑問視する声が上がった。一方で“Stage4胃がんに化学療法だけ”という現行の標準治療に挑戦する姿勢を見せたのが、岐阜大学大学院医学系研究科腫瘍外科学分野教授の吉田和弘氏と山口和也氏だ。

 進行したStage4胃がんでは、腫瘍量を軽減するために手術を実施しても予後は不良であることから、治療の中心は化学療法が中心だ。「しかし、最近は根治切除不能Stage4胃がんで化学療法を行った結果、切除可能となる症例が散見される」と吉田氏は語る。レトロスペクティブな検討では切除例(37例)の生存期間中央値は855日、非切除例(35例)では277日で有意差(p<0.0001)が出た。吉田氏らはこうした手術を“adjuvant surgery”と呼ぶ。

 「adjuvant surgeryを実施する上で問題となるのは実施のタイミングをいつにするかということ」と吉田氏は言う。同氏の考えは「腫瘍が増殖し始める時期ではなく、縮小している時期に手術すべき」というものだ。抗がん剤治療に抵抗性を示す時期に手術を行うと急速に転移、増殖を来たす可能性が高いためだ。

 こうした考えは、大腸がん治療の分野ではconversionという概念で先行している。切除不能と判断されたがんでも抗EGFR抗体医薬のセツキシマブなど腫瘍縮小効果の高い薬剤を使用し、適当なサイズに縮小したところで手術に持ち込むという作戦だ。既に肝臓に転移した大腸がんでconversionに成功し、長期生存に持ち込めた例が報告されている。