欧米に較べ新薬の承認が遅れる“ドラッグラグ”。種々の措置が功を奏して解消に向かっているように見えるが、「ラグの構造自体は温存されたままだ」と、以前は審査する側に身を置き、現在も医薬品評価システムを研究する小野俊介氏は指摘する。問題は解消に向かっているのではなく、ただ見え難くなっているに過ぎない。日本に導入される新薬候補化合物の数は減少しており、事態はむしろ悪化しているとさえいえるのだという。 (聞き手:小崎丈太郎=本誌編集長)


小野 俊介(おの・しゅんすけ)氏
1989年東京大学大学院薬学系研究科修了。厚生省に入省し、2002年に金沢大学薬学部助教授に就任。 2005年に医薬品医療機器総合機構に移り、新薬審査業務に従事。2006年に東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学講座・助教授(現准教授)に就任。
(写真:清水 真帆呂)

――ドラッグラグが解消に向かっているという声を聞くようになりました。

小野俊介 そうは思いません。ドラッグラグがとりわけ顕著な問題となったのは抗がん剤です。過去10年間にわたって、この問題への解決策として「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」などが開催され、遅れを取り戻そうと努力してきたことは確かです。医師の武器倉庫に武器が増えてきたことは間違いないのですが、決してドラッグラグを解消しようという方向の努力ではなかった。

――構造的な問題は残っているということですか。

小野 解決の気配すら全く見えていない状況です。承認の遅れがなぜ生じたのかという問題を抜きにして、目先の問題に非常手段を行使したに過ぎません。新薬開発はマラソンに例えることができます。最初の100mを猛烈にダッシュすれば、良い位置をキープすることができます。でも全コースを走る切る用意がなければ、やはり脱落してしまうわけです。依然としてそういう状況であるのに、「ドラッグラグが解消されつつある」と発言するのは無責任です。難癖をつけているように聞こえるかもしれませんが、「解消に向かっている」という言葉を軽々しく使うことによって行動の歪みが生まれるのです。「解消に向かっている」というと皆は安心して、今までと同じ行動を繰り返す。私は強い危機感を抱いています。

――ドラッグラグが解消していない状況を示すデータはありますか。

小野 図1を見てください。新薬候補物質の開発の遅れは、この10年間、着実に悪化してきました。日米両方で同時に開発着手された新薬候補については、ラグは改善してはいませんが、維持されています。しかし、全ての新薬候補で見るとラグは年々拡大しているのです。図2を見てください。これは日米欧のいわゆる3極で開発中の新薬開発プロジェクトの数の経年変化を表していますが、欧米のプロジェクトは増加しているのに日本は減少しています。