抗がん剤の中でも特に食思不振を招きやすいシスプラチン(CDDP)は消化管の腸クロム親和性細胞(EC 細胞)を刺激してセロトニン産生を促し、グレリン分泌細胞を抑制して食思不振を起こさせることが知られており、CDDPを用いた食思不振モデルにおいても六君子湯の効果が確認された(図6)。これまでもプラセボ試験ではないが低用量と常用量の前向き試験で効果は実証されており(図7)、抗がん剤による食思不振に六君子湯を用いることは強く推奨される。

六君子湯の使用のコツ

 多くの漢方薬には甘草(カンゾウ)が生薬として含まれているが、六君子湯も例外ではない。従って、グリチルリチンを主成分とする甘草が大量に含まれている為、長期連用する際には、偽アルドステロン症・低カリウム血症に注意が必要である。特に、抗がん剤を使用する場合に体力低下の改善などの目的で後述するような補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)などの補剤(ホザイ)を併用する場合も多いが、これらの漢方薬にも甘草が含まれており、カリウムなど電解質異常に注意を払うことが重要である。

体力低下、免疫力低下にまずは補中益気湯(ホチュウエッキトウ、TJ41)、次に十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ、TJ48)、さらに人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ、TJ108)
 補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯などはいずれも補剤に分類され、BRM(Biological Response Modifier)として、免疫機能改善作用や栄養状態改善作用、生体防御機能作用を持ち、術後のQOL改善、がん化学療法・放射線療法の副作用軽減、手術侵襲軽減、がん転移・再発予防などを目的に術後がん患者を中心に使用されている。

 補中益気湯の“中”とは消化管を意味し、病後や術後の全身倦怠感に対して胃腸の働きを高め、体力を補い元気をつけるという意味である。最大の狙いは感染症対策であり、抗がん剤による副作用軽減などに使用される。作用機序としては、これまでに抗ウイルス効果(インフルエンザなど)、NK細胞活性化、CTL(細胞障害性Tリンパ球)の誘導などが知られている[参考文献(10、11)]。最近の報告では外科的ストレスによる免疫能低下の防止作用、さらにはがん増殖抑制効果も報告されている。

 十全大補湯の“十全”とは完全無欠を意味し、幅広く大いに補うという意味である。特にがんの転移・再発の予防効果が期待されている。最近ではクッパー細胞の酸化ストレス抑制による肝がん発生を抑える可能性が報告された。抗腫瘍効果が免疫能向上だけでなく血管新生を抑制する効果も報告されている。また、抗がん剤による骨髄造血能低下、特に血小板減少に効果がある。

 人参養栄湯は構成する生薬から見て呼吸器に関連する症状を改善する働きが期待できる。