治療に関して最近、遺伝子操作で合成したケラチノサイト増殖因子(KGF)が造血器腫瘍の化学療法に起因する口内炎に対する効果が確認され、FDAで承認されたが、日本では未承認である。しかし、そのKGFに関してがん細胞に対する増殖因子となる可能性について十分な検討はなされていないという懸念もある。半夏瀉心湯に関してはすでにCPT-11による晩期下痢発症に対して予防的効果が報告され多くの症例で併用されているが、これまでに半夏瀉心湯併用によるがん増殖などの報告はなく、さらには抗がん剤の抗腫瘍効果に対する影響も報告されていない。

 口内炎による痛みは摂食障害の原因となり、患者のQOLを下げる大きな問題である。従って口内炎による痛みをコントロールすることが治療における大きな目標となる。口内炎の痛みは感覚神経へのプロスタグランディンE2(PGE2)の作用で誘発されると考えられており、半夏瀉心湯は炎症部位におけるPGE2の誘導を濃度依存的に抑制することが報告されている。

 さらに抗がん剤による免疫力低下にともない口腔内環境、特に口腔内細菌叢による2次感染も病態増悪への関与が示唆されている。半夏瀉心湯の構成生薬である黄連(オウレン)の主要成分であるベルベリンは広い抗菌作用を有しており、大腸における細菌性細胞障害に対する抑制効果も報告されている。

 そこで我々が大腸がん化学療法中に発生した口内炎に対して半夏瀉心湯を使用した臨床試験を行ったところ、期待通り有効性を確認することができた。この結果は、2011年ASCO GIで発表される(図4)。最近、プラセボ使用二重盲検第2相試験(HANGESHA試験)によるエビデンスレベルの高い臨床研究が開始されている。

半夏瀉心湯の使用のコツ

 本来、服用するのが漢方薬の原則だが、局所濃度を高めるために口内炎では綿棒で直接患部に半夏瀉心湯を塗布することで、急速に痛みを軽減させることができる。また、予防効果を目的に半夏瀉心湯を50ml程度の湯に溶解し、数回に分けて口腔に含んでもらい1回5秒程度ゆすぎ、吐き出してもらう。もちろんそのまま飲んでもかまわないが、抗がん剤による吐気がある場合には飲みこむ必要性はない。1包が2.5gで1日3回、食後に行う。変則的な使用方法であるが、効果はきわめて高い。

食思不振に六君子湯(リックンシトウ、TJ43)
 漢方薬の中で最も機序解明が進んでいるものの1つである。名前の由来である6つの胃腸に良い生薬を組み合わせたものが中国の中医にあるが、日本は8つの生薬から構成されているので“八君子湯”と呼ぶべきかもしれない。

 余談はさておき、この六君子湯の作用機序、特に食欲増進作用に関する機序解明は驚くべきスピードで進んでいる[参考文献(9)]。

 グレリンは生体が持つ唯一の食欲増進ペプチドであり、このグレリンを分泌する細胞の表面には産生抑制スイッチとなるセロトニン受容体が存在する。六君子湯の構成生薬である陳皮(みかんの皮)の主要成分ヘプタメソキシフラボンには、このセロトニンと拮抗的に働いて胃や十二指腸にあるグレリン分泌細胞のグレリン分泌を間接的に増強させる働きがある(図5)。