現在“4週連日投与2週休薬”(4投2休)で使用されている経口抗がん剤TS-1(S-1)について、隔日投与することによって効果を損なわず副作用を減らして、服薬コンプライアンスを高める試みが検討され始めている。まだ、多施設共同の臨床試験が始まったばかりであるが、多くのがんで使われている経口フッ化ピリミジン系抗腫瘍薬であるTS-1の新たな展開として注目される。しかも提唱しているのはTS-1の生みの親とされる人物だ。


 「病院で注射によって投与される抗がん剤に比べ、経口抗がん剤は軽い体感的副作用であっても服薬コンプライアンスは著しく低下します。Grade 1の悪心・嘔吐、食思不振、下痢など副作用が出れば服薬をやめる患者さんが出ます。これは経口剤の宿命です。TS-1の副作用を緩和し継続治療をするためには現在の4投2休よりも隔日投与が有効だと思います」。

北里大学・北里生命科学研究所の客員教授の白坂哲彦氏

 横浜を会場に10月に開催された第18回日本消化器関連学会週間(JDDW2010)の特別講演に登壇した北里大学・北里生命科学研究所の客員教授、白坂哲彦氏は聴衆に向かってこう語りかけた。白坂氏の別の肩書きは大鵬薬品工業(株)特別顧問、大塚製薬(株)顧問。大塚製薬・琵琶湖研究所、大鵬薬品・創薬センターに在籍していた際に、経口フッ化ピリミジン製剤であるUFTやTS-1の開発に携わった人物だ。特に主作用成分である5-FUの分解酵素の阻害剤(CDHP)と消化管毒性を軽減するためのオキソンカリウム(Oxo)の配合を主張し、3剤配合というTS-1の基本設計を行った人物であり、TS-1の生みの親だ。

 現在では主に、各地で講演し臨床医らにTS-1の隔日投与の可能性を説明する日々を送っている。JDDW2010の講演で白坂氏はこうも語った。「以前は信用されないことも多々あったが、最近では耳を傾けてくれる方が増えた」。その結果、隔日投与の有効性を検証するため多施設共同の臨床試験が始まっている。

太田氏の葬儀で聞いた、小川氏の弔辞がヒントに
 TS-1が発売されたのは1999年。この後から、白坂氏はより副作用が少ない投与方法について思いを巡らすことになる。契機となったのは国立がんセンター名誉総長(当時)だった杉村隆氏の言葉。「TS-1はよく効くけど、副作用で患者さんが苦しんでいるよ。作った人の責任として考えて下さい」。白坂氏の父親も肝臓がんを罹患し、UFTの治験に参加している。そのとき味覚障害の辛さを父親から聞いていたためで、経口薬の副作用には関心があった。隔日投与によって副作用を減らせるのではないか。そのヒントは意外なところからもたらされた。

 それは、元愛知県がんセンター総長で1996年8月に膵臓がんにより72歳で死去した太田和雄氏の葬儀の席上読まれた同センター総長(当時)の小川一誠氏の弔辞の中にあった。生前の太田氏を偲んで小川氏は、がん細胞は正常細胞に比べて細胞周期が長いという発見を太田氏の業績として紹介した。白坂氏は30年来の親友である、札幌月寒病院長・山光進氏と一緒に参列しその斎場で小川氏に故人の論文の送付を依頼、そしてその違いから隔日投与の着想を得た。

 太田氏は1965年に発表した論文[参考文献(1)]で腸管粘膜や骨髄の細胞周期が0.42〜1.32日であるのに対してがん細胞は3.8〜5.0日であると報告している。「ということは、投与後24時間以内に代謝されるTS-1の投与を隔日投与で行えば、非投与日に増殖する正常細胞は抗がん剤の影響を受けず、繰り返すことで細胞周期の長いがん細胞だけがダメージを受けることになると考えた」(白坂氏)。図1は白坂氏による仮説説(一部改変)だ。TS-1を連日投与すれば、がん細胞と正常細胞が無差別に薬剤に曝露されることになるが、隔日投与ならば約半分の正常細胞への曝露を回避することが可能になり、がん細胞に対しては繰り返すことで効果は減弱しない。24時間以内に代謝されるTS-1はこの原理に当てはまる薬剤だ。