医療圏が大規模な地域では、段階的な連携も一法
 現在、膵臓がん診療に携わる多くの関係者が、尾道方式に注目しており、三重県鈴鹿市の医師会も同様の早期診断システムの導入を検討している。尾道方式が成果を上げている要因を整理すると、(1)ERCPに比べ低侵襲の画像検査技術であるEUSを中核病院が導入したこと、(2)医師会が早期発見の意義を理解しクリニカルパスを準備したこと、(3)医師会会員が積極的に腹部USを活用し、疑わしい症例の拾い上げに協力したことなどが挙げられる。

 尾道方式を他の地域に移植する際のキーポイントを問われると花田氏はためらうことなく「病診連携」を挙げた。県庁所在地など都市部の医師会に講演などに出向く機会も増えた花田氏は、病診連携の重要性を説きつつも、聴衆である医師との質疑応答を介して大規模医療圏で濃密な病診連携を進めることの難しさを感じることがあるという。

 医師会会員が増えれば、様々な意見の持ち主が出てくるのは避けられない。尾道市のように40万人の医療圏で医師が400人という医師会であればいいが、100万人を超える医療圏では連携が難しくなる。カリスマ会長の号令一下、全体が1つの目標に向かっていく体制ができていない地域ではどうしたらいいか。

 ヒントになりそうな例が熊本市にある。熊本市は、昨年(09年)10月から、熊本地域医療センターが中核医療機関となり尾道方式による膵臓がん早期発見プロジェクトを開始している。説明会を開き、参加を希望する医療機関72施設だけでプロジェクトを発足させた。同士だけでも集まって行動に移すことが手っ取り早いというわけだ。

 熊本医師会の連携医療機関では56例を紹介、4例の膵臓がんを確定し、その中の1例はStage1であったという。Stage1もしくは冒頭の患者のようなStage0で発見できた症例が増えれば、ほかの地域医師の関心を引くことになるだろう。

 病診連携を密にした尾道方式は、膵臓がんだけではなく、救急医療を端緒に認知症や脳卒中などの疾患で先行していた。膵臓がんのプロジェクトはそうした病診連携が息づいていた土壌で譲成された側面があり、花田氏も成功の要因にそうした環境要因を挙げている。一方で地域の医療機関が関与しない膵臓がん診療の手詰まりは明らかであり、「一部の先進的な地域が実施している」と傍観している状況では済まなくなりつつある。

 病診連携が充実していたから早期膵臓がんが発見できるということが明らかになった以上、今後は逆に早期膵臓がんの拾い上げ事業の立ち上げを通じて地域の病診連携が加速していく事例も生まれてくるかもしれない。

検診ではなく日常診療から意識的に見つける姿勢が大切
尾道市医師会会長 片山壽氏
 がん医療難民というがこれはがん医療の連携難民にほかならない。尾道市医師会方式の背骨にあたる病院と開業医の連携基盤は、1991年に立ち上げた「救急蘇生委員会」だ。これは尾道市内の3つの急性期病院と診療所の病診連携による救急システムで、同時に近隣の開業医同士の連携・互助システムも構築された。勤務医と開業医の枠を超えた病診連携の基盤であり、その後の高齢者医療ケアシステムの礎となった。救急医療に高齢者医療に地域開業医が主体的に参加するというと、抽象的だが、現在では医師不足に悩む市民病院の休日の当直も開業医が当番制で参加するほどだ。入院中の患者には、往診のついでに開業医が主治医として病院に顔を出し、病院側の担当医と意見交換を行う。
 入院していた患者が自宅に戻る際には“尾道方式15分のケアカンファレンス”を開く。患者が退院する際に医師(開業医、勤務医、研修医も含む)、看護師、理学療法士、ソーシャルワーカーなどの医療職のほかケアマネージャー、介護福祉士などの介護の専門職が一堂に会して、在宅移行へのケアプランやリハビリプランの検討を行う。このカンファレンスは多忙な各職種の仕事の合間の15分間で行う。場所は病院であり、診療所でありと様々だが、業務の合間に集合し、病院の各職種が患者に対して行った機能評価や検査の結果を持ち寄り、在宅復帰への情報提供と意見交換をする。病院に患者を紹介した開業医が往診の途中、白衣で首に聴診器をかけたままの診察に来ることも普通だ。患者を取った、取られたという患者の紹介・逆紹介をめぐって起こりがちな論争はここではあり得ない。情報交換が終わればスタッフはもとの持ち場に戻っていく。本当の病診連携は医療資源の効率的な利用の姿であり、尾道市には遊んでいる施設、職種はいない。(談)