片山氏は「早期膵臓がんの拾い上げには、地域の開業医の協力が必要。医師会会員たちが、その事情を理解して、腹部超音波(US)検査を実施し、疑わしい症例はすぐにJA尾道総合病院に紹介してもらえるように、連携クリニカルパスを作った」と説明する。

TS1膵臓がんを発見、上皮内がんは3年間で9例
 『早期膵癌診断プロジェクト』はまず連携施設(地元開業医)による膵臓がん危険因子の聴き取りと腹部USによるスクリーニングから始まる。糖尿病の増悪、慢性膵炎、膵臓がんの家族歴、喫煙、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の危険因子が認められる患者には、腹部US、CTを施行する。

 この段階で腫瘍そのものの描出率は低いが、膵管拡張、膵嚢胞性病変がみられる患者は、JA尾道総合病院で磁気共鳴胆管膵管撮影(MRCP)やEUSを実施する。腫瘤性病変が認められた場合には、さらにERCP下膵液細胞診、内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)、超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNAB)を行う。

 膵臓がんではないが、膵臓がんが合併する頻度が高いIPMNと診断された場合は病院と地域医療機関で分担して経過観察を続ける。

 「早期膵癌診断プロジェクト」の成果として花田氏は、「連携医師や患者にEUSの意義を理解してもらったこと、EUSによる紹介数の増加、さらに1cm以下膵臓がんの診断件数の増加」を挙げた。

 プロジェクトが始まる前年04年と09年とを比較すると、EUS実施例は04年の157件から09年は390件に増加、膵臓がん確定診断症例も年間26件から51件に増加した(表2)。当面の目標であるTS1症例は4例から13例にやはり増加した。特に07年1月以降10年3月までの間、腫瘍径1cm以下の症例は合計15例、うち膵上皮内がん9例を診断することができた。

 JA尾道総合病院における膵臓がんの手術件数も右肩上がりの増加を続けている。07年の切除率は44%、09年には61%に達した(表3)。全国的に手術できる膵臓がんの症例は全体の20%前後とされており、同病院と地域がいかに高率に手術に到達できているかがわかる。

日本膵臓学会も尾道方式の普及を推進
 日本膵臓学会理事長の田中雅夫氏(九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科教授)は尾道市の「早期膵臓癌診断プロジェクト」を高く評価している。「日本膵臓学会でも尾道方式の普及を進めたい」と語る。

 早期診断の活動が評価された花田氏は今年(2010年)6月に、同学会から「膵癌診療ガイドライン」の改訂委員会委員を委嘱された。花田氏は診断部門を担当することになっており、ガイドラインに尾道方式が反映される可能性も出てきた。

 膵臓がん患者を日常的に診療しているが、早期がん患者をほとんど診たことがないという医師も少なくない。きわめて早期の膵臓がんの病理組織から新しいバイオマーカーを探す研究も理化学研究所ゲノム医科学研究センター・バイオマーカー探索・開発チーム(中川英刀チーム・リーダー)との間で始まっている。その研究自体も早期膵臓がんが仮想的存在であるうちは実現しない。

 早期膵臓がんのバイオマーカーが発見されれば、より早い段階で疑わしい症例を絞り込むことも期待できる(図6)ほか、「末梢血を試料に前立腺がんのPSA(前立腺特異抗原)検査のように広範囲にスクリーニングすることも夢ではなくなる」(田中氏)。