患者の免疫型に合致した抗原ペプチドを利用
 一口にがんのワクチンと言っても、様々な方法がある。最近では子宮頸がんの原因であるHPVの感染予防ワクチンも登場しているが、がんワクチンというと、多くの場合は既に罹患した患者に治療目的で接種するワクチンを指す。それでも採用される抗原の違いによって様々な種類がある。

 後述する東京大学医科学研究所教授の中村祐輔氏が進めているワクチンにも様々な種類があるが、最も進んだ研究レベルにあるのは、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)のペプチドを抗原とし、膵臓がんの治療を目指すタイプのものだ。しかし、研究機関の数からはこのタイプは例外的な存在であり、主流はがん特異抗原を接種してがん細胞に特異的な免疫反応の誘導を目指すタイプのものだ。伊東氏ら久留米大学グループが日常的に接種しているワクチンもこのタイプに属する。

 伊東氏らが進めているのは「腫瘍抗原ペプチドを用いたテーラーメードがんワクチン療法」という方法だ。がん関連由来抗原ペプチドがワクチンとして投与されると、ペプチド特異的な細胞障害性T細胞(CTL)が賦活化される。活性化CTLががん局所に達すると同じペプチドを発現しているがん細胞を排除攻撃する。このペプチドを投与するのががんペプチドワクチンの原理だ。患者個々のがんと免疫の相互作用の違いによって免疫応答を誘導できるペプチドが異なる。加えて、CTLはヒト白血球抗原(HLA)と抗原ペプチドとの結合を介して、ペプチドは攻撃対象の目印として記憶するが、このHLAにも個人差、人種差がある。日本人に最も多いHLA-A24は日本人全体の60%が保有するが、欧米ではHLA-A2が全体の50%を占める。つまり、どのペプチドに反応するかには個人差が存在する。

 そこで久留米大学グループは、特異免疫を誘導できる複数のペプチドの中から、予め検査して最適なペプチドを選択して使用する“テーラーメード型”のワクチン療法を考案し、世界で初めて臨床現場に持ち込んだ。現在では、ワクチン開始前の免疫検査結果に基づき、31種類のがんワクチン候補ペプチドから個々の患者に適したペプチドを最大4種類選び(患者によってはそれより少ないケースもある)、毎週ないし2週ごとに外来で皮下投与している。

 図1〜3は、再燃性前立腺がんを対象に、久留米大学泌尿器科、近畿大学泌尿器科、岡山大学泌尿器科が共同でまとめたワクチンの研究結果だ[参考文献(1)]。ホルモン療法を行った後で再燃(PSA4ng/ml以上)となった患者を2群に分け、無作為割付し、1群に常用量のエストラムスチン(EMP)をもう1群にはペプチドワクチンと低用量EMPによる治療を行った。無増悪生存期間(PFS)では常用量EMP群の2.8カ月に対して“ワクチン+低用量EMP”群8.5カ月と大幅に改善した(p=0.0012、HR=0.28[95%CI0.14-0.61)。全生存期間(OS)でもワクチン併用群が勝っているとの結果が出た。