手術、放射線照射、化学療法に続く、第4の治療と称される免疫療法。期待は大きいのだが、本当の実力はどうなのだろうか?前立腺がんを対象にしたがんペプチドワクチンが高度医療に認められ、多くのがん種の治療を日常的に行っている久留米大学がんペプチドワクチン外来にその答えを求めた。


血液検査と問診によってワクチン接種の可否を判断。

 「ばんざい」

 10月のある日の午後、場所は久留米大学病院の外来診察室―。60歳代の女性患者が控えめに両手を挙げた。患者は上行結腸がんで肝臓にも転移があった。ラジオ波焼灼療法とがんペプチドワクチンによる治療を受けてきたが、その日は定期検査の結果が出た日だ。CT検査の結果は、腫瘍像が消失、転移も認められないというものだった。

 患者が持参した検査リポートに視線を落としていた同大学医学部免疫・免疫治療学教授の伊東恭悟氏は顔を上げると、「良い結果が出たね」と微笑み、患者の眼前で小さくガッツポーズを作った。患者も「自分でもすごく元気になったことがわかります」と声を弾ませる。患者に付き添ってきた夫も相好を崩して軽口をたたきはじめた。

 「しかし」と伊東氏は釘を刺す。「見えないといっても、がんがなくなったわけではありません。がん細胞が100億個くらいになってやっと見えるのががんです。がんは見えないけれど存在していると考えなければいけません」

 緊張した面持ちにもどって頷く患者に、伊東氏はこう続けた。

接種するワクチンは一度に4本(4抗原分)。

 「でも、一生このレベルに留めておくことは可能です」

 「一生――、可能ですか」。上ずった声で伊東氏の言葉を鸚鵡返しした患者は、今度は両手を広げて大きく万歳をした。

 伊東氏の説明は続く。「できる限り、今の生活を続けてください。ストレスはためず、風邪も引かないように。そして、ワクチンはこれまでより間隔をおいて続けましょう」

 この後、寝台に横臥した患者の腹部に伊東は予定していた4本のワクチンを接種した。

 しばし、伊東氏とバラの剪定などについて雑談を交わした後で、「合格証みたいだから」と言って夫婦はコピーしてもらったCT検査リポートを携えて、診察室を後にした。

 伊東氏は、全国で最も早くがんペプチドワクチンの臨床応用を開始した医師である。現在、久留米大学のがんペプチドワクチンは、ドセタキセル不適格のホルモン抵抗性再燃前立腺がん(ヒト白血球抗原HLA-A24陽性に限定)に対しては高度医療(第3項先進医療)の適応が認められているが、そのほかのがんについては患者の自己負担によって治療が続けられている。この日、伊東氏は8人の患者を診察した。

ワクチンを皮下接種する。

外来終了時にはカルテを整理。