造血器腫瘍に多いTLS
 どのような腫瘍がTLSを引き起こす危険性があるのか。薄井氏は「腫瘍量が大きく、しかも薬物感受性が高い腫瘍は要注意」と指摘する。こうした腫瘍は崩壊しやすく、崩壊すると大量のリン酸やカリウムを放出することになる。

 起こしやすい疾患には造血器腫瘍が多い。非ホジキンリンパ腫では、バーキットリンパ腫、B細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)、急性リンパ性白血病(ALL)では白血球が10万/μl以上と多い患者、急性骨髄性白血病(AML)では白血球数5万/μl以上がTLSのハイリスク疾患として知られている。

 とりわけ近年、登場してきた分子標的治療薬はその抗腫瘍効果の高さからTLSを警戒すべき治療薬だと薄井氏は指摘する。「B細胞性リンパ腫の治療薬であるリツキシマブでは投与開始早期にinfusion reactionと呼ばれるアレルギー反応が起きるが、この中にTLSが含まれている可能性もある。海外では乳がんなどの固形がんでもTLSが報告されているが、抗腫瘍効果の高い分子標的治療薬ではTLSが起こっても不思議ではない」。

 再発または難治性のCD33陽性のAMLを適応とするゲムツズマブオゾガマイシンの薬効はアドリアマイシンの1000倍とされ、市販後調査の結果ではTLSの発症頻度が2.59%と高い。こうした薬剤を使用する場合にはTLSの発症対策も同時に行う必要がある。

尿酸生成抑制薬使用の盲点
 TLSによる急激な尿酸値の上昇は腎不全を引き起こす可能性があることから、TLSと診断された場合には尿酸生成抑制薬のアロプリノールの投与が推奨されている。しかし、ここには盲点がある。

 崩壊した腫瘍から漏出した核酸は図2のようにヒポキサンチン→キサンチン→尿酸となる。この反応を触媒する酵素がキサンチン酸化酵素で、アロプリノールはその反応を阻害することによって尿酸の生成を抑える。このとき問題になるのが酵素反応の停止によって血液中に貯留する代謝物の水溶性だ。ヒポキサンチンは水溶性だが、キサンチンは難水溶性で、尿酸よりも水に溶け難い(図3)。アロプリノールはTLSを予防するがキサンチンの上昇により急性腎不全や尿路結石の原因になりかねない。

 TLSの発生が懸念される場合の予防薬として酵素製剤のラスブリカーゼがある。「効能又は効果」はがん化学療法に伴う高尿酸血症」。わが国では昨年11月に登場したばかりで広く知られているわけではないが、米国食品医薬品局(FDA)ではリスクに応じたラスブリカーゼの使用を推奨している(表2)。

人間だけが持たない代謝酵素
 ラスブリカーゼは尿酸を水溶性のアラントインという化合物と二酸化炭素と過酸化水素に代謝する。アラントインはpH値にかかわらず高い水溶性を示す(図3)。したがって生成されたアラントインは尿に溶けて速やかに排泄されることになる。哺乳類の多くはこの尿酸→アラントインを触媒するラスブリカーゼを持っているが、なぜか人間は持っていない。酵素製剤は遺伝子組み換えで製造したラスブリカーゼを体外から投入して、進化の過程で失われた機能を補充するために開発されたもの。がん化学療法開始4〜24時間前のTLSの発症が懸念されるハイリスク患者に予防的に投与することで承認されている。

適応の見極めに余地
 ラスブリカーゼの使用に際しては、生成する過酸化水素を分解するグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6DP)の欠損患者に使用すると、過酸化水素が赤血球を攻撃して溶血性貧血を起こす可能性があること、また酵素製剤であり、頻繁に投与すると抗体が誘導されてしまうなどの注意が必要だ。また、どのような患者に対して事前にリスクを評価して使っていくべきかが、なお明確ではない。国内では成人患者(18〜75歳)、小児患者(18歳未満)を対象とした2つの臨床試験が行われている。対象疾患は急性白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍であったが、症例数は成人50例、小児30例に過ぎない。

 「ラスブリカーゼはTLSリスクを軽減する大変有望な薬剤だが、投与スケジュールなど、まだまだ見直していく余地が残っているので、市販後調査を通じて慎重に症例を重ねて、最適な使用方法を見極めていくべき」と薄井氏は語っている。