「TERMSもRevMateもなお改善の余地が大きい」
日本骨髄腫患者の会副代表 上甲恭子氏
 サリドマイド、レナリドミドの胎児曝露の防止を目的に構築されたTERMSやRevMateという薬剤管理システムを、患者たちはどのように見ているのだろうか。患者代表としてシステム設計の議論にも関わった上甲恭子氏は、現行のシステムは過剰な規制のもとで運用されており、薬剤へのアクセス制限につながりかねないと心配している。
 私は父が患者であった縁で、日本骨髄腫患者の会(事務局:東京都小金井市)の活動に関わるようになりました。残念ながら父は2005年に他界しましたが、そのころTERMS構築に向けた協議が始まり、遅れてRevMateの話も持ち上がったことから、継続して会にとどまり、双方のシステムの企画、設計に立ち会うことになりました。催奇形性がある薬剤である以上、何がしかの規制がかかることは仕方がないことですが、その規制が科学的に不合理なものであれば患者にとっては受け入れ難いものです。新しい治療薬が使えるようになり、患者や家族の方々から喜ばれると考えていましたが、会に返ってくる評価は予想以上に厳しいものでした。
妊娠できない患者にも避妊指導
 TERMSでは、サリドマイドが使用できる施設を日本血液学会の専門医が勤務する施設に限定しました。その結果、地方で専門医がいない地域に住んでいる患者さんは2週間に1回、遠方からの通院を余儀なくされました。通常の新薬ならば薬価収載から1年を経過した時点で無期限処方が可能になるのですが、サリドマイドでは添付文書に「安全管理を確実に実施するため14日間分の処方」と規定されていて、その改訂が必要でした。
 しかも、処方のたびに医師は避妊を指導することが義務づけられています。ある30歳代の女性患者は、病気が進行して骨と皮ばかりの状態になり車椅子の生活を送っていますが、処方のたびに、「避妊の指導」を受けています。多発性骨髄腫は発症年齢中央値が65歳と高齢者に多い病気ですが、患者の状態や年齢に関係なく、このような指導が行われているのです。また薬剤を服用後、空いた容器を医療機関に持参することがルール化されていますが、これも「患者を信頼していないための措置」と反発する患者もいます。少なくとも海外では空容器の返却を義務付けている国はないと聞いています。疑問に感じている医師も多く、「医師患者関係にとってマイナス」という声もあります。TERMSについては順次、規制が緩和される方向で厚生労働省が協議を進めていますが、患者の利便性や医学的な整合性がとれたものになるかどうか、注意していく必要があると思います。
全例の妊娠検査は必要か
 RevMateでは施設基準は緩和され、専門医と連携できる医師がいると使用できるようになりました。しかし、45歳以下の女性患者は処方ごとに妊娠検査を行う仕組みは残りました。患者が妊娠できる状態にあるのかどうか、主治医の裁量で判断する余地が全くないないところは問題だと思います。米国で採用されているレナリドミドの運用システムRevAssistも妊娠検査を採用していますが、実施するかどうかは主治医や看護師が判断できることになっています。
 ボルテゾミブの場合は間質性肺炎など重篤な肺障害のリスクがあるということでしたから発売当初、肺障害に対応できる施設に使用が限定されたことは当然だと思います。サリドマイドは過去に大きな薬害の原因になった薬剤でありレナリドミドはその誘導体である以上、なんらかの規制はしかたないと思います。しかし、胎児曝露の予防に施設限定や患者の状況に配慮しない避妊指導や妊娠検査が必要とする考えが理解できません。「催奇形性がある」「高齢の患者が多い」「一部には妊娠の可能性がある」という条件下で、施設の限定や度重なる妊娠検査は本当に有効なのでしょうか。
早期承認を最優先に考えた
 こうした疑問が出てくるであろうことはシステムを議論している時点でも予想はつきました。しかし、一刻も早く患者のもとに届けるためには、薬剤管理システムの議論に時間を取られすぎてはいけないという気持ちありましたので、目をつぶった部分があったことも事実です。患者さんや医療現場には申し訳ないけれど、しんぼうしてもらおうと。
 しかし、薬剤の使用が始まってみると、患者さんや医師から会に寄せられる声は予想以上に厳しく、この判断が正しかったのかどうか、悩むことがあります。
 TERMS、RevMateの議論に当たっては、サリドマイド薬害の被害者らの意見が重視されました。サリドマイド薬害の当時、催奇形性は未知のリスクでしたが、現在では既知のリスクです。それらを区別することなく厳格な薬剤管理を導入した結果、本来の患者の利便性や医学的、科学的な正当性が犠牲になったのではないかという気がしています。世界標準とされている米国のシステムの全体像が今現在どのようなものであるか、日本同様サリドマイド禍に遭遇したドイツや英国が、現在どのような方式で多発性骨髄腫の治療を進めているのか、これから調べて日本のシステムがよりよいものになるよう取り組むつもりです。 (談)