催奇形性ゆえの厳格管理
 サリドマイドの誘導体であることから、催奇形性は半ば宿命のようなもの。カニクイザルによる動物試験で催奇形性が確認され、ヒトでもその可能性が否定できていない。「経口投与可能で外来で利用できる」ことがこの薬剤の長所の1つだが、簡単に使用できる薬剤ではない。特に、処方された薬剤が妊婦に渡り、胎児に暴露することを防止するシステムの構築が厚生労働省による承認条件となっている。

 いつどこで誰が誰に処方し、使用したという情報を集約する安全管理システムのことで、2年ほど国内で先行してサリドマイドを販売する藤本製薬(大阪府松原市)ではTERMSという仕組みを運用している。TERMSでは、使用する患者、医師、薬剤師を登録し、患者は受診前日に毎回「診療前調査」を独立した情報管理センターであるTERMS管理センターにファックスする。これは患者の情報を医師や薬剤師を介さず直接センターが収集し、サリドマイドが適切に使われていることを確認するためだ。

 レナリドミドを販売するセルジーン社(東京都千代田区)もTERMSと同様のシステム「RevMate」(専用サイト:www.revmate-japan.jp)を立ち上げている(図4)。患者、医師、薬剤師を登録し、薬剤の処方、使用情報を集約するという基本原理はTERMSと同じだが、大きな違いが2つある。

 1つは処方医の資格だ。TERMSが日本血液学会専門医に処方医を限定しているのに対して、RevMateでは専門医と同等の知識と経験を有し、かつ専門医と連携を取れる場合は認められる。僻地で血液専門医が不足する場合でも、レナリドミドを処方できるようになった。また、処方医が行う確認内容はTERMSと同じだが、管理センターとのやり取りが薬剤部においてハンディ端末(写真2)を使って行うことができる。

写真2:安全管理システムRevMateの新兵器、ハンディ端末(カシオ製)。

 レナリドミドの申請は2009年6月に行われ、承認は2010年7月。前年2月に希少疾病用医薬品の指定を受けていたが、わずか1年あまりで審査を終了したことは関係者を驚かせた。セルジーン社はこの間にRevMateのシステムを構築できたことになるが、医師で同社の医学本部長の高徳正昭氏は「日本では小売業界で商品管理をオンタイムでも行うPOSのシステムが発達しており、端末メーカーも大いに経験を積んでいたので、それほど難しい作業ではなかった」と語っている。

 RevMateの意義を認めつつも「課題はある」と日本骨髄腫患者の会副会長の上甲恭子氏は指摘する。胎児への暴露を避けるという観点から、処方前に患者は妊娠可能性の有無を必ず問診される。「妊娠できるような状態ではない患者に問診することは患者を苦しめることになる」(次ページ参照)。

治療体系はどう変わるか 
 照井氏はレナリドミドの登場で、日本の多発性骨髄腫は図5のように変わると見ている。

 レナリドミドの登場によって薬剤選択の幅が広がったことは確かだが、それはゴールではなく新しい治療法の確立に向けたスタートと考えた方が良いようだ。少なくとも海外では薬剤の潜在的な能力を最大限に活かすための試行錯誤が始まっている。今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、自家骨髄移植の後の維持療法としてレナリドミド単剤を使った結果が有効であったと報告されたが、日本ではすぐにこの治療法が試みられるわけではない。日本の承認条件となったデキサメタゾンを併用したレジメンではなかった。「1500人を目標にした市販後調査が終了するとトライする施設も出てくるかもしれないが、それでも推奨するためのエビデンスはまだない」と照井氏は語っている。

 欧米では第3のIMiDsの開発も進んでおり、新規薬剤の登場により、治療アルゴリズムの見直しがこれからも必要になると同氏は見ている。