写真3:聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座教授の朴成和氏

 聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座教授の朴成和氏は「今年のASCOでは消化器の主要な試験のほとんどはネガティブだった。大腸がんの分野ではセツキシマブ、パニツムマブといった抗EGFR(上皮細胞増殖因子)抗体以後の薬剤が登場していないことを考えると、ネガティブとなったことは残念」と語る。

 専門家が議論してどちらとも結論が出かねるレジメンを患者の協力を得て比較することが臨床試験である以上、ポジティブな結果ばかりとなれば、逆にその試験というものの正当性自体が疑われることになる。ネガティブな結果が出ることは当然だ。一方でネガティブ試験の結果は腫瘍学の教科書を書き換えることなく、また治療ガイドラインに反映されることもない。では全くの徒労に終わるかどうかは、その結果の分析次第という側面もある。

 ネガティブとなった原因を究明することができれば、有効な治療法を新規に開発するための王道にもなるはずだ。実は、その典型的な例を日本はASCO総会に先立つ年初に開催されたASCO-GI(gastro intestinal)で経験している。肝細胞がんの主要な治療法の1つである肝動脈化学塞栓療法(TACE)の術後化学療法としてソラフェニブの有効性を探ったPostTACE試験がそれだ。結果的にネガティブになったが、その結果からは多くの教訓を読み取ることができる。ASCO総会の話題をひとまず離れて、PostTACE試験について見てみよう。

PostTACE試験の教訓
 肝細胞がんの治療法として日本国内で最も頻繁に行われているのが、栄養動脈の遮断による阻血効果を目的にした肝動脈塞栓療法(TAE)であり、抗がん剤を併用することがほとんどであるために、肝動脈化学塞栓療法(transcather arterinal chemoembolozation;TACE)と呼ばれる。肝細胞がんではTACEを行っても、再発を繰り返すことが多く、そのつど治療が実施されるが、やがて死にいたるケースが多く、この再発頻度を下げること、再発までの期間をできるかぎり延長することが生存期間の改善に直結する。この再発予防効果を進行肝細胞がんの適応を持つソラフェニブに期待して始まったのが、PostTACE試験だ。

 試験はTACE施行後の患者を、層別無作為化した日本と韓国の患者合計458例に対してソラフェニブ(400mg×2回/日)とプラセボを対照として実施された。主要評価項目の無増悪期間はネガティブ。すなわち、TACE後のソラフェニブはプラセボに無増悪期間を有意に延長しなかった。副次評価項目となったOSもやはりネガティブだった(図3)。

写真4:社会保険下関厚生病院病院長の沖田極氏(山口大学名誉教授)

 ところが、サブグループ解析をしたところ、日本と韓国では異なる結果が出ていたことが明らかになった。日本の症例(検討した症例合計310例)ではHR=0.94(95%CI[0.75-1.19])で有意差が出なかったのに対して、韓国の症例(検討した症例合計71例)ではHR=0.38(95%CI[0.18-0.81])と有意差が出たのである(図4)。

 なぜこのような差が出たのか。試験の取りまとめにあたった下関厚生病院の院長、沖田極氏(山口大学名誉教授)は「日韓で異なった結果が出た原因を明確にすることが、この試験の大きな教訓になる」と語る。「試験の結果は確かにネガティブだったが、その原因を究明できれば次の試験につながる。試験を実施した意義が生きることになる」。