最近、分子標的治療薬の臨床試験がネガティブな結果に終わる例が目立ってきた。 過去10年にわたって内外のがん化学療法を牽引してきた分子標的治療薬はついに限界を迎えたのか。それとも新たな飛躍に向けた踊り場なのか。状況の打開に向けた次の一手を探った。


写真1:近畿大学医学部腫瘍内科特任教授の西條長宏氏

 国立がんセンター東病院(現在国立がん研究センター東病院)の前副院長で、現在は近畿大学医学部特任教授の西條長宏氏は、最近製薬会社の関係者から繰り返し同じ質問を受ける。「なぜネガティブ試験ばかりだったのか」。西條氏はここ数年続いた分子標的治療薬の臨床開発を見直すべきときに来ていると答えることにしている。

 従来の殺細胞型の抗がん剤と異なり、分子標的治療薬では抗腫瘍効果は低いががん細胞の増殖を抑制して、生存期間を改善するとされてきた。この概念自体を疑ってみる時期に来ていると同氏は指摘する。「分子標的治療薬の中には抗腫瘍効果ではなく、リン酸化の阻害など標的分子の機能を抑えることを指標に選抜されてきた化合物が多く、臨床評価が十分なされないうちに第III相試験まで行ってしまった薬剤がある」。

ネガティブ試験が目立ったASCO2010
 分子標的治療薬にネガティブ試験が相次ぎ報告され、一種の減速感が漂っている。

*クリックして拡大表示

 実際、今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会では、注目された第III相臨床試験が軒並みネガティブ試験となったことが話題となった。特に顕著だったのは消化器分野だ。例えば、進行転移胃がんを対象にカペシタビン+シスプラチン(CDDP)+プラセボvs.カペシタビン+CDDP+ベバシズマブ(Bev)の二重盲検無作為化第III相試験のAVAGAST試験(図1、2)。登録された症例の25%は日本、20%が韓国というアジアの胃がん先進国の比重が高い国際臨床試験であった。結果は無増悪生存期間(PFS)ではBev群が有効であった(HR=0.80[95%CI:0.68-0.93] p=0.0037)が全生存期間(OS)では、有意差は検証できなかった(HR=0.87[95%CI:0.73-1.03]p=0.1002)。

 大腸がんでは、転移大腸がん(mCRC)を対象にオキサリプラチン(L-OHP)+カペシタビン(レジメンXELOX)の後に維持療法としての有効性を比較するXELOX+Bev vs. Bev単独の第III相試験MACRO試験が行われたが、全奏効率(ORR)、PFS、OSに有意差が出なかった。術後化学療法(アジュバント)としてKRAS遺伝子野生型を対象にしたmFOLFOX(5-FU+LV+L-OHP)+セツキシマブ(Cet)vs.Cet単独試験でもCetの効果は証明できず、むしろ増悪する効果が認められた。

 Cetが有効とされてきたKRAS野生進行大腸がん症例に5-FUorカペシタビン+L-OHPvs.5-FUorカペシタビン+L-OHP+Cetを比較したCOIN試験でも、Cet群にPFS、OSともに改善効果が見られずネガティブ試験となった。このほかCetは、KRAS遺伝子野生型の大腸がんの術後化学療法としてmFOLFOX vs. mFOLFOX+Cetでもネガティブな結果となった。

写真2:米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会会場風景 今年はネガティブ試験の多さで注目された

 もちろん、すべての重要な試験がネガティブになったわけではない。消化器がんでは、膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumors)においてスニチニブはプラセボに対してPFS(HR=0.418 95%CI[0.263-0.662]p=0.0001)、OS(HR=0.409 95%CI[0.187-0.894]p=0.0204)ともに大幅に改善することが確認された。しかし、ここ数年がんの化学療法を牽引して来た主要な消化器がんでははかばかしい成果は少なかった。