ドーズ・デンス療法とNorton-Simon(ノートン・サイモン)のモデル
 卵巣がんは、化学療法の感受性の高いことから、かつては、大量化学療法や1回の投与量を増やすdose-intensive therapy(強化化学療法)が検討された時代もあったが、これらの試験結果すべてで目覚ましい効果は得られなかった。

 Dose-dense(ドーズ・デンス)化学療法の概念は、化学療法の投与量は増やさずに、投与間隔を縮めることにより、抗腫瘍効果を高めようとする理論背景に基づく。ドーズ・デンス化学療法の概念を最初に提唱したのは、ニューヨークのMemorial Sloan Ketteringがんセンター(MSKCC)のラリー・ノートン医師である。同氏は、数学博士のPhDを持ち、MSKCCの乳がん治療部長となったが、腫瘍細胞の増殖は、腫瘍量が少ないときには速く増殖が進み、腫瘍量が多くなると栄養を補給する血液量や酸素が少なくなるため、増殖が遅くなるというGompertzian(ゴンパーチアン)の増殖モデルを基に、化学療法による腫瘍細胞の減少のモデル(ノートン・サイモンのモデル)を提唱した(図3)。

 ノートン・サイモンのモデルとは、化学療法が奏効し、腫瘍の大きさが小さくなるにつれて治療効果は高くなるが、治療後のreboundで腫瘍細胞の増殖速度も速くなる。図3(下)によると、8回の治療後腫瘍細胞は1万個に減少するが、腫瘍の増殖速度は1000倍となるという。ノートン・サイモンのモデルは、地固め療法、術後化学療法や逐次化学療法(sequentialchemotherapy)の理論的背景(図4)となり、その理論の正当性が証明されている。

 ドーズ・デンス化学療法(図5)はノートン・サイモンのモデルを基に提唱され、乳がんの術後化学療法、転移性乳がんの化学療法で実証されている。ドーズ・デンス化学療法として、weekly paclitaxelは有名である。weeklypaclitaxelは副作用を減らすために開発された治療と誤解される傾向にあるが、元々の治療コンセプトは、ノートン・サイモンのモデルからであることを知っておいてもらいたい。

ドーズ・デンス化学療法を検証するためのランダム化比較試験:JGOG3016
 乳がんに応用されているドーズ・デンス化学療法を卵巣がんでも検証する目的で、従来の3週間ごとのTC療法をコントロール群として、PTXの投与間隔を3週間から1週間に狭めたドース・デンス化学療法の有効性を検討するランダム化オープン比較試験NOVEL(NewOvarian Elaborate trial:JGOG3016)が日本で計画された。

 この試験は、特定非営利活動法人婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構(JGOG)の主導で実施された。同試験の対象は、20歳以上の組織学的または細胞学的に確認されたStage供銑鹸の卵巣がんおよび原発性腹膜がん、卵管がん患者637例。03年4月〜05年12月に、日本全国85のJGOG認定施設から登録された。

 治療は、(1)標準治療のPTX+CBDCAの3週1回投与群(TC療法群:320例)と(2)PTX週1回+CBDCA 3週1回投与群〔ドーズ・デンスTC(dd-TC)療法群:317例〕にランダムに割り付けた。PTXの投与量は、dd-TC療法群で80mg/ 屐並良縮明僉法TC療法群で1回180mg/屐CBDCAの投与量は両群ともに血液濃度曲線下面積(AUC)6mg/mL/分とし、各群とも6〜9サイクルの治療を行った。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)、奏効率、有害事象、QOLであった。有効性の解析は、TC療法群319例、dd-TC療法群312例、安全性解析は、各群314例、312例で行った。両群間の患者背景に大きな差は認められなかった。

 その結果、dd-TC療法群では、TC療法群に比べて無増悪生存期間(PFS)が有意に延長した〔28カ月対17カ月(中央値)、ハザード比0.71、95%信頼区間(CI)0.58-0.88、P=0.0015、図7〕。3年生存率はdd-TC療法群でTC療法群に比べて有意に高かった(72.1%対65.1%、HR 0.75、CI 0.57-0.98、P=0.03、図8)。

 早期の治療中止例は、dd-TC療法群でTC療法群に比べて多かった(165例対117例)。dd-TC療法群で血液毒性による中止症例が多かった(113例対69例)。最も頻度が高い有害事象は、好中球減少症〔dd-TC療法群92%(286/312例)対TC療法群88%(276/314例)〕。グレード3および4の貧血発生率は、dd-TC療法群で有意に高かった(69%対44%、P<0.0001)。神経毒性は両群間で同等であった。

 この結果の解釈として、総投与量がdd-TC療法240mg/屐TC療法群180mg/屬dd-TC療法群の方が多かったため効果が上がったのではないかという批判があるが、PTXの1回投与量を225〜250mg/屬泙覗量したものとの比較試験では有効性は認められていない(JClin Oncol 2003; 21: 2843〜48、 J Clin Oncol2004; 22: 686〜90.)ことから、今回、有効性の高い結果が得られたのは、PTXの総投与量が増えた結果によるものではなく、投与間隔を狭めたドーズ・デンス治療の結果によると考えられる。

 JGOG3016の結果は、08年のBest of ASCOにも選ばれ、NCI Cancer Bulletin(米国国立がん研究所から発信されるがん関連のトピック:優れた臨床試験の結果)にも掲載されるなど、海外からも高い評価が得られている。現在、JGOG3016の結果を受けて、米国婦人科腫瘍臨床研究グループ(GOG)、欧州卵巣がん研究グループ(ICON)は、検証試験GOG0262、ICON8を計画している(図9、10)。

 これらの試験で日本での結果が正しかったことが検証され、ドーズ・デンス化学療法が今後、世界の標準治療となることが望まれる。