専門コメディカルに欲しい診療報酬上の裏付け
吉田 乳がん看護認定看護師の制度に関して何か問題点がありますか。

太田 渡辺先生が指摘されたように、受験するには周囲の理解が必要不可欠なのですが、職場によっては休職や退職を余儀なくされるようです。

渡辺 せっかく資格を取っても、かえって冷遇されるケースもあると聞いています。これではキャリアが生かせないどころか、地域がん診療のレベルを後退させることになりかねません。外来化学療法に従事してもらうには夜間勤務から外し、しかし、給与は下がらないといった、その能力と機能を十分に発揮してもらうための勤務体系や給与といった待遇面を整備することも同時に進めないといけないと思います。

吉田 当院では、外来化学療法センターを看護師中心に運用しています。しかし、病棟は看護師配置の7:1を優先的にキープする必要があり、外来が人手不足になりがちです。経営面を考慮すれば仕方がないのですが、がん診療が病棟中心に行われていたころの残滓ともいえます。

 診療報酬の設定も、入院は病院に、外来は診療所に厚くというように区分されており、どうも、がん診療の変化に医療制度が追いついていない印象があります。また、認定看護師や医学物理士の存否は診療報酬に全く反映されませんので、渡辺先生がおっしゃるように、資格を付与するだけではコメディカルの機能は引き出せないということになりかねません。

渡辺 薬剤師にも同様のことが言えると思います。高機能がん診療所には、当然、診療所薬剤師が必要ですが、外来化学療法を管理できる薬剤師となると、服薬指導、点滴指導、疑問への対応、副作用対策など、かなり高度な専門性が求められます。どのように育成するか。調剤薬局に勤務している薬剤師の場合、1日当たりの取扱処方せん枚数制限などがあって1軒当たりの雇用人数は多いのですが、半面、専門性を求められていないため、即戦力としては考えづらい状況があります。

吉田 全くその通りですね。ところで、太田さんは、乳がん看護認定看護師として、日常はどのような業務を行っているのですか。

太田 週に1日、通常の外科病棟勤務とは別の外来活動日というものが設けられています。その日は外来で患者さんと面談し、様々な相談に乗っています。最初のころはリンパ浮腫に関する相談が約8割を占めていましたが、最近は治療レジメンの選択や意思決定に関する相談が約6割を占めるようになっています。

 術前の化学療法の選択、術式を乳房温存術にするか乳房切除術にするかといった案件について、その患者に合った、ご本人の意向を十分に尊重した方法を選ぶお手伝いといった仕事が増えてきています。患者1人に大体1時間、1日に多くても5人ぐらいが限界ですので、もっと機会が増やせればと思います。

吉田 その人に合っているかどうかをどのように判断するのですか。標準治療を厳格に施行することが基本ですから、必ずしも患者さんが希望する方法が採れないこともあるでしょう。

太田 例えば、脱毛は絶対に嫌だから、そのような副作用の出る治療は受けたくないという患者がいます。そのような方には、まず、頭髪のケアについて説明する方法でアプローチします。それでも拒否される場合は、ほかの治療法がないか、渡辺先生や主治医の先生に相談するようにしています。

渡辺 患者さんがその治療法をなぜ嫌がるのか。その“なぜ”の部分を太田さんが掘り下げてくれています。それが経済的な理由であったり、薬剤に動物の成分が用いられているのが嫌だったりとか、事前に解析された情報提供を受けられるので、われわれも大変対応しやすく助かっています。

医学教育への提言
がんへのコミットは早めに


吉田 ここまで、当院での乳がん診療の実態をお話ししながら、地域がん診療の問題点とその解決策を模索してきました。その中で、がん診療に専門性を持つ医師の育成、高機能がん診療所の開設、コメディカルの機能の活用といった方向性が見えてきました。ただ、いずれも越えなければならないハードルを抱えています。特に、腫瘍内科医の育成は、最初にお話ししたこと以外に、昨今の臨床試験で手術単独治療の限界、つまり補助化学療法の有効性が次々と報告されている状況からみても、今後のがん治療の中核を育てるという意味で最重要課題だろうと思います。

渡辺 腫瘍内科医の育成は、現実を踏まえればon the job trainingを主体とすべきだと思います。研修先の病院で実際の正しいがん診療というものを見せていかなければなりません。医学生のころにがん診療に対する取り組みの動機付けを行うことも重要だと思います。

吉田 がん診療の臨床現場を幅広く研修する機会は、現状では多くの場合初期研修期間中に限定されますので、後期研修時にも専攻以外の関連診療科を回れるような工夫、例えば、がん診療レジデントというようなカリキュラムが必要になりますね。

渡辺 しかし、大学の講座制がネックになっています。

吉田 そこで伺いたいのですが、卒業して一定の臨床経験を積んだ医師の再教育という方向性はいかがですか。

渡辺 それも重要です。例えば、私が消化器内視鏡を勉強する。そのためのトレーニングセンターが存在していて、一定期間かけてそこで研修することで安全かつ正確な内視鏡の操作、画像診断力が身につけられるといったことができればと思います。医師不足といわれていますが、吉田先生が指摘されたように、再教育は有効な解決策だと思います。それを実践できる施設はつくるべきです。

吉田 もう1つの解決策として挙がった高機能がん診療所ですが、これをつくるには、軸足とそれ以外のがん種にも一定レベル以上の専門性を持つ医師が必要になりますね。

渡辺 吉田先生や私がこのような視点を持ち得たのは、国立がんセンターでレジデントして各診療科を回って勉強できたからだと思います。このシステムをほかのがん診療連携拠点病院も採り入れればよい。できないのだとすれば、それはいまだに医師の供給源を大学医局に求めているからではないでしょうか。

吉田 そうはいっても、地域医療機関が簡単に大学医局との関係を断ち切れない状況にあることも事実です。ですが、大学側もがん診療についての到達目標を明確にして、それに応じた研修ローテーションを組むといったことをぜひとも考えていただきたいと思います。もう1つ、これは昔からいえることかもしれませんが、若い医師に医局依存性、地元依存性といった安定志向のようなものを感じます。地域医療の立場からは大変結構な話ですが、積極的に外に出て、地域にはない専門的な知識や技術を吸収していかないと、最終的に地域自体が先細りする可能性も危惧されます。

渡辺 個人差もあると思いますが、そのこともあって医学生のころからの動機付けが必要だと考えています。癌研有明病院では大学が夏休みの間に医学生を対象としたセミナーを開催しています。こういったことが、医師のがん診療に対するモチベーションの向上につながるのだと思います。

がん診療の拠点化実現へ
高機能診療所+専門コメディカル

吉田 地域のがん診療の停滞を招いている一因として、従来の医療システムががん診療のニーズに必ずしもマッチしていないことが考えられます。都市部ではがんセンターを中心とした米国型に近づきつつあるのに、地方へ行けば行くほど医療機関同士の連携は乏しくなり、診療各科もそれぞれ縦割りの単科診療をせざるを得ないという、一種の閉塞状態を解消できず、がん診療全体の底上げといった方向に機能していない。

渡辺 卵が先か、鶏が先かという議論と似てますが、鶏、つまり地域医療機関のがん診療の拠点化を先行させる方が早道というのが私の意見です。その具体的な形が、何度も言うようで恐縮ですが、高機能がん診療所です。

吉田 青森県では、当院のがん診療センターを含め地域がん診療連携拠点病院の機能の向上を図ることで、がん診療の拠点化を実現しようとしています。しかし、もしこれが軌道に乗ったとしても、渡辺先生が言われるように高機能がん診療所のような存在がなければ、システムとして機能しないのは先刻の青森県の実態に関する議論で明らかにした通りです。そうはいっても、必要な医師が充足するまでには5年、10年といったかなりの時間を要しますし、充足したとしてもその機能を極大化するにはコメディカルの力が不可欠ということになります。太田さん、最後にもう一度、看護師サイドから地域がん診療の構築に向けての熱いメッセージをお願いします。

太田 青森県での地域乳がん看護研究会を立ち上げたいと考えていますが、参加者がなかなか集まりません。乳がんに特化するという誤解があるのかもしれませんが、決してそうではなく、がん診療の中での看護の幅を拡大し、質を高めたいというのが趣旨です。先生方にもご協力をお願いします。

吉田 わかりました。一緒に頑張りましょう。お話にもありましたが、青森県内の乳がん専門医は4人しかおりません。そんな状況下でも、様々な人たちの必死の努力によって、これまで地域のがん診療を何とか支えてこれていますが、限界は明らかですし、様々な工夫をする必要があります。本座談会で示された方向性と対応策を可能な限り具体化して実践し、改めてその成果を報告できればと思います。本日は貴重なご意見、活発なご討議をいただきありがとうございました。