渡辺 亨(わたなべ・とおる)氏
1980年北海道大学医学部卒業。米国留学を経て、国立がんセンター中央病院内科医長に。国際医療福祉大学臨床医学センター教授、山王メディカルプラザ・オンコロジーセンター長を務めた後、郷里の浜松市に浜松オンコロジーセンターを開設。現在は同センター長、渡辺医院院長。

街角がん診療を進展させる高機能がん診療所
吉田 浜松オンコロジーセンターは、どのようなコンセプトをもって立ち上げられたのですか。

渡辺 “あなたの街でがん治療”がコンセプトです。

 吉田先生もご存じのように、国立がんセンターでは1985年ごろから外来化学療法を開始しました。しかし、当時は自宅がセンターの近隣にある方を除いて前日に宿泊、治療当日は5時間待ちで5分間の診察を受け、さらに3時間待って1時間の点滴を受けるという形でした。これでは患者さんの負担が大きすぎます。本来のがん治療とはいえない。仕事を持っている方であれば出勤前や勤務終了後に、学童がいるのであれば子どもが学校に行っている間に治療を受けられるような“街角がん診療”が必要だと考えたわけです。実にうまくいっています。

 点滴を受けるときはもちろん、有害事象が出現したときや何らかの不安を感じたときはすぐに来院し、われわれと話をして安心して帰っていかれます。このような“高機能がん診療所”は、どの地域にも共通して必要だと考えています。

吉田 確かに、乳がんの補助化学療法は短期間では終わらないし、無理をすると続かなくなりますね。

渡辺 治療レジメンにもよりますが、抗がん剤の点滴を行う場合は12週から24週、トラスツズマブの場合は1年かかります。

吉田 患者さんにとってはかなりのストレスになることは想像に難くありません。渡辺先生が提唱される街角がん治療を実践する拠点としての高機能がん診療所は、確かに地域のがん診療を進展させる有効な手段だと思います。

渡辺 その1つの取り組みとして、がん診療連携拠点病院と一般診療所の連携が模索されています。しかし、どこもうまくいっていない。専門性のない診療所で点滴だけ受ける患者は不安を抱きますし、診療所側も患者の質問に答えられず、不安も解消してあげられない状況は受け入れ難いという背景があるのだと思います。経験を積んだ人材を擁し、ある程度の設備が整った診療所が一定の数で配置されれば、検診率の高さに見合った死亡率の減少につながっていくと思います。がん診療連携拠点病院の付属診療所という形態でもよいと思います。

話は医学生の教育とともに現場の医師の再教育へと展開した。

吉田 大勢の患者さんを診なければならない病院という医療システム自体が、基本的に患者さんに待合室での長時間の待機を余儀なくし、その結果、医師と患者とのコミュニケーション不足を生んでしまう。その点、診療所という形態は、医師と患者の関係を比較的濃密にしやすい。がん診療連携拠点病院にできないものを患者に提供するという意味でも、高機能がん診療所の設置が重要だということですね。

専門化を支えるコメディカル
レジメンを理解できる実力が必要

吉田 高機能がん診療所の必要性には諸手を挙げて賛同しますし、これが恐らく1つの究極の姿だろうとは思いますが、現実には腫瘍内科医が質・量ともに不足しており、これが高いハードルになっています。私個人としては、これを越えるには、コメディカルの存在が非常に重要になると思っています。事実、青森県にはがん診療に熱心なコメディカルの方が多く、それが医師の負担軽減につながっています。

 そこで、太田さんに伺いますが、なぜ、乳がん看護認定看護師を目指したのですか。

太田 私は01年に外科病棟に異動になりました。病棟には乳がん患者さんが大勢入院しています。

 乳がんの患者さんが、ほかのがん種、特に消化器がんの患者さんと異なるのは、術後早期から歩行可能で食事も取れ、入院期間が短い点です。それなのに、看護師に対する相談がほかのがん種よりも断然多かったのです。その理由についていろいろと調べてみますと、50歳代という乳がんの好発年齢が、女性の社会的な役割がピークとなる時期に重なることがわかりました。

 退院後の社会復帰を乳がんに対する不安を抱えたまま果たさなければならない状況にあるわけですが、それに対して何もサポートできない現実がありました。退院時指導用のパンフレットの作成も試みましたが、その過程で自分が乳がんの術後補助薬物療法について知識を持ち合わせていないことを思い知らされました。

 どのような基準で治療レジメンが選択されているのかがわからないわけです。病理の結果を見ても、必ずしもそれと一致しない形で治療レジメンが選択されており、割り切れないという気持ちが強かったわけです。

吉田 それを解消しようとした。

太田 乳がん診療に熱心な先生が、乳がん看護認定看護師という資格制度が新たに設けられると教えてくださり、資格取得試験を受けてみたらどうかと後押ししてくださいました。看護部も応援してくださり、6カ月間に600時間という講習を受ける間は病棟勤務ができなかったのですが、その期間を出張扱いにしていただきました。

吉田 休職せずにキャリアアップできたということですね。

渡辺 私は千葉大学で乳がん看護認定看護師資格試験受験者向けの講義を受け持っていますが、受講者は皆さん乳がん看護に非常に高いモチベーションをお持ちです。ただこの資格認定試験には時間も費用もかかりますし、周囲の理解なしには受験自体が困難です。

 しかし、その資格を取得された看護師の方々は乳がん診療に大変な貢献をしてくれています。事実、青森県立中央病院での月に1回の私の診療が円滑にできているのも、太田さんが上手にコーディネートしてくださり、不安のある患者さんには相談するように適切に勧めていただいているからです。

吉田 専門医の限られた時間を最大限に有効利用することは重要ですね。

渡辺 こういったことがうまく機能するのであれば、腫瘍内科医は常勤でなくても済むかもしれません。