吉田 茂昭(よしだ・しげあき)氏
1971年北海道大学医学部卒業。74年国立がんセンター病院内科レジデント、80年同消化器科医長。87年に米国メイヨー・クリニックに留学。92年に国立がんセンター東病院内視鏡部長、95年5月に同副院長、2004年に同病院長に就任。07年より青森県立中央病院長。

進行再発乳がんなど難治がんでは腫瘍内科医の力が欠かせない
吉田 このような現状から抜け出すために、今後、日本全体での乳がん診療をどうすればよいでしょうか。

渡辺 乳がんが全身性の疾患との認識が広まるにつれ、術後の補助化学療法が標準治療として行われるようになってきたのはご存じの通りです。乳腺専門医も、徐々にですが数が増えてきています。

 また、00年以降、がん治療に用いられる薬剤開発の方向は、従来の殺細胞性抗がん剤に代わり、分子標的治療薬が中心となっています。これらの一部は既に乳がんにも臨床応用されています。

 さらに、有効性を予測できる因子の存在、耐性機構の解明などから、個別化医療につながる可能性も指摘されており、従前以上に腫瘍内科学的な視点、取り組みが要求される状況になっています。

吉田 ここでも、腫瘍内科医の存在が鍵になると。

渡辺 特に、進行再発乳がん、それも遠隔転移を伴うケースに関しては、現時点では基本的に治癒は望めませんが、その場合、患者のQOLの向上あるいはこれを損なわない形での延命治療が求められます。緩和化学療法といった視点が必要なわけで、こういったこともその専門家たる腫瘍内科医が担当すべき領域といえるのではないでしょうか。

太田 富美子(おおた・ふみこ)氏
1994年青森県立青森高等看護学院卒業、看護師資格取得、青森県立中央病院小児病棟勤務。2001年外科病棟に所属。08年乳がん看護認定看護師認定。日本がん看護学会、日本乳癌学会、日本乳がん看護研究会会員。

地域病院はがん診療にどう取り組むべきか
吉田 乳がん死は、先進諸国を見渡すと減少傾向にあるようです。その理由として、マンモグラフィーを用いた乳がん検診率の高さが挙げられることが多いのですが、それが事実なら日本でもこれを今以上に普及させる必要があるのではないかと思います。ちなみに、青森県の乳がん死亡率は47都道府県中2番目の高さです。一方、乳がん検診の受診率はというと…。

太田 47都道府県中の第7位です。

吉田 検診率が比較的高いにもかかわらず死亡率が高いということは、発見された時点で手遅れになっているのか、あるいは乳がん治療に何か問題があるのかということになりますが。

渡辺 英国や米国で乳がんの死亡率が1990年代から急激に低下した理由には、検診率の高さに加えてホルモン剤と抗がん剤を適切に選択し使用するという治療の充実化が挙げられています。

吉田 青森県の場合、人口に比べて面積が広いことから、患者の自宅が治療を行う医療機関からかなり遠方にあって通院に時間がかかるというケースが少なくありません。この状況が、例えば、術後補助化学療法施行の阻害要因になり、主治医の熱心な勧めがないと実施されないということにもなりかねません。

太田 当院では、渡辺先生の指導を受けていることもあり、乳がんを担当する外科の先生が患者に正確な説明をしており、必要な場合は遠方に居住している方でも術後補助化学療法を受けに通院されています。そこには、青森県の世帯構成が大家族主体であって、家族が患者の通院を手助けしやすい状況もあるかもしれませんが。

吉田 様々な社会的阻害要因を超えて適切な治療を受けていただけるように、適応となる患者さんに標準治療の必要性を正確に説明し、理解させられるような医師の育成が乳がんの死亡率を低下させる上で重要だということですね。その場合、対象となる医師は必ずしも腫瘍内科医でなくてもよい。外科医や一般内科医であっても、実際に乳がん診療を行っている方に、そのような能力を期待したいということだと思いますが、どのように育成したらよいでしょうか。

渡辺 これまでは大学病院に人材育成を頼っていたわけですが、これからは都道府県のがん診療連携拠点病院がその役割を担うべきだと思います。

吉田 都道府県のがん診療連携拠点病院はそもそも、がん診療にかかわる研修教育をすることが認定要件になっており、当院でも平成20年度にがん診療センターを開設し、キャンサーボードなどを通じて公開の勉強会を行っています。しかし、内容的にはまだまだ改善すべき点が少なくありません。外部の先生方の指導が絶対的に欠かせないというのが現状です。

 ところで、渡辺先生は乳がんが専門ですが、がん薬物療法に関しては臓器を超えて診療されていますね。

渡辺 浜松オンコロジーセンターでは乳がんが約6割を占めますが、子宮体がん、子宮頸がん、卵巣がんといった婦人科がん、それから前立腺がん、最近増えてきた大腸がんの患者を診ています。誤解があるかもしれませんが、腫瘍内科医はあらゆるがん種を診なければならないということではありません。軸足となる専門分野は必要です。そこを起点に、共通する考え方でカバーできるがん種の患者さんを診ていけばよいと思います。