がん医療の専門化が大きく進展する中で治療の多様化が進んでいる。このため、地域医療が今まで以上に広く、深くがん医療にコミットする必要性が指摘されている。一方で、「地域医療の崩壊」と呼ばれる現象も進行しており、多くの地域医療機関は2兎ならぬ3兎を追うことを余儀なくされる厳しい状況に置かれている。この座談会では、青森県立中央病院の乳がん診療への取り組みを例に、地域のがん医療の現状と問題、さらにその解決への試みについて語り合っていただく。(以下敬称略)

(左)青森県立中央病院長 吉田 茂昭 氏(中央)青森県立中央病院・乳がん看護認定看護師 太田 富美子 氏(右)浜松オンコロジーセンター長 渡辺 亨 氏(写真◎淡路敏明)

吉田(司会) 本座談会では、地域医療機関におけるがん診療というテーマで、現状、問題点、改善の方向性と具体策を、青森県や青森県立中央病院における乳がん診療を実例として、浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生、県内でただ1人の乳がん看護認定看護師で青森県立中央病院外科病棟勤務の太田富美子さんとともに検討してまいりたいと思います。

 さて、2007年4月にがん対策基本法が施行され、卒前・卒後医学教育におけるカリキュラムが見直されるとともに、がん診療連携拠点病院構想に基づく都道府県がん診療拠点病院および2次医療圏単位の地域連携病院が指定され、がん診療体制の整備が進みつつあります。

腫瘍内科医育成とがん診療の均てん化
吉田 このような地域連携の体制が構想通り機能するには、腫瘍内科医の育成が急務であることが指摘されてますが、その数はなお十分でありません。

渡辺 そもそも腫瘍内科医とは何かを議論する必要があります。がんの治療の歴史的な変遷をひもといてみますと、腫瘍やその周辺組織、つまり局所に対する治療として、まず外科手術が、次いで放射線照射が行われ、遠隔転移や切除不能例に対する有効な薬物療法はこれらにかなり遅れて登場しました。その後、その応用として、術後補助化学療法や術前化学療法、あるいは化学放射線療法などの集学的治療が実施されるようになり、現在に至っています。

 腫瘍内科学はその過程で、がん患者の全身的な治療に関する学問として研究の進められた分野であり、腫瘍内科医はこれを臨床に生かす専門家ということになります。したがって、決してがんの薬物療法のみを行うのではなく、内科医としてがん患者を全身的、かつ全人的に診ながら診療を実践する医師ということになります。しかし、この腫瘍内科の分野は、大きく立ち遅れています。そして、この遅れが、がん診療の均てん化が思うように進展しない最大の要因の1つだと考えています。

吉田 渡辺先生も私も、かつては国立がんセンターに所属し、そこでのがん診療を体験しています。私が青森に赴任してまず感じたのは、一般診療の中でがん患者を診なければならない地域医療機関と、がん患者だけを診ていればよい国立がんセンターとの診療内容の格差と、腫瘍内科の立ち遅れでした。

渡辺 国立がんセンターでは腫瘍内科医が十分な活躍の場を与えられ、がん診療のレベルの高度化に貢献しています。そこから地域へ腫瘍内科医やその他のがん診療の専門家が輩出されていくような状況が実現できれば、地域医療機関でも国立がんセンター同様のがん診療が実践できると思います。

乳がん医療の専門化が遅れた理由は
吉田 がん診療への取り組みを考える上で、青森県における乳がん診療の状況、特に私たち県立中央病院の乳がん診療への取り組みを例に挙げて検討していきたいと思います。太田さんは、青森県の乳がん専門医の人数をご存じですか。

太田 日本乳癌学会が認定した乳がん専門医は、09年11月20日現在で4人です。

吉田 全県あげて4人しかいない。私たちの病院には1人もおりません。なぜ、乳がん専門医がこんなに少ないのでしょうか。

渡辺 乳がんは、今でこそ全身性の疾患という認識が広がりつつありますが、つい最近までは局所病変ととらえられ、治療は手術が主体でした。腫瘍組織を外科的に除去する上で、審美性を考慮しないのであれば、手術手技も比較的容易ですから、乳がん手術に高度の専門性は要求されない。つまり、消化器外科医や一般外科医でも手術が可能なわけです。他方、これまで医師は大学医局の人事ローテーションに従って異動していました。乳がんを専攻しようにも、行く先々の医療機関に乳腺科があるわけではない。この2つの状況が専門性の確立を難しくしたのだろうと思います。

 私は昨年の5月から月に1回、青森県立中央病院で乳がん診療のサポートを行っていますが、やはり10人の外科医が消化器がんとともに乳がんも手術を行っている状況です。典型的な地域医療機関における乳がん診療体制といえると思います。