放射線治療装置を導入して指定を更新
 愛媛県の今治医療圏は人口17万人。この医療圏で平成19年にがん診療連携拠点病院に指定された済生会今治病院(171床、写真4)は、拠点病院の指定を更新するために放射線照射装置を昨年末に導入した(写真5、6)。米国Varian社の「CLINAC iX」の価格は本体が約3億円、別に建屋(リニアック棟)の建設に2億円という出費となった。同病院は四国で唯一、頭頸部の定位治療専用装置サイバーナイフを設置しており、年間60人以上の患者を治療してきた実績があった(写真8)。サイバーナイフは昨年体幹部への照射が保険適応となったが、用途はなお限られている。乳がんや肺がんの治療を行うには、汎用できる放射線治療装置が必要だった。

済生会今治病院院長の松野剛氏。専門は消化器外科だが化学療法、緩和医療も担当している。

 県内を見ると、松山市では4病院、新居浜市では3病院に、放射線治療装置が設置されているが、今治市では0だった。愛媛大学医学部附属病院や国立病院機構四国がんセンターがある松山市に出るには、電車を使うと急行で45分、各駅停車ではその倍はかかる。本数は1時間に2〜3本しかなく、通院に便利とは言いがたい。いきおい、松山市に出向くには車を利用することになるが、これが高齢者の多いがん患者にとってハードルが高くなる理由になる。「若くて比較的元気ながん患者は四国がんセンターに通うことができるが、そうでない患者は地元の医療機関を頼らざるを得なくなる」(済生会今治病院院長の松野剛氏)。

 今治市内には、病床数で済生会今治病院を上回る県立今治病院(270床)があるが、こちらは産婦人科や小児科が活発で、周産期医療が充実しているという特徴はあるものの、がん医療の水準を決定する常勤病理医、放射線診断医、麻酔科医は済生会今治病院にしかいない。「がん診療連携拠点病院としては、うちが指定を維持するしかないと判断した」と松野氏は語る。

 もっとも採算を考慮すると、拠点病院を辞退することも選択肢にあったと同氏は振り返る。しかし、地元の住民へのPR効果もあり、拠点病院であれば患者も集まりやすいと考えたという。「放射線治療装置を導入したから経営にプラスになるとは考えていないが、年間100人ほどの患者を治療できれば出費に見合った収入が得られる。10年くらいかけて、その水準にまで持っていけたらいいと考えている」。装置とともに必要となる医療スタッフについては、愛媛大学の理解を得ることができ、専門医を派遣してもらえることになった。

 新設の放射線治療装置は、昨年12月から試運転を開始し、地域の医師を招いた内覧会を開催した。今年1月から本格的な治療を開始したところ、2月上旬までに10人ほどの患者が治療を受けた。松野氏は「思いのほか良いスタートが切れた」と感じている。

 拠点病院となったことで、国と県から支給される補助金は600万円、入院初日の加算も金額にすれば200万円ほど。採算というレベルには遠いが、意外な援軍が総務省からあった。放射線治療装置の導入が、住民の定住を促進する公的支援事業の対象となり、6000万円の補助金が交付されたのだ。

 それでも十分とはいえない。「済生会である以上、住民の健康維持を第一に考えなければいけない。民間病院だと決断しにくいかもしれない」と松野氏は語っている。

空洞化が心配な化学療法
 放射線治療装置の有無は見方によっては単純な問題だ。しかし、化学療法の体制が十分かとなるとやや曖昧になる。専門的な知識を有する医師の常勤を求めているが、専門医についての明確な規定はない。専門的な腫瘍内科医の育成が遅れていることが最も大きな問題だが、現状では、各病院が専門家として申請すれば厚労省も異論を唱えることはできない。同省の関係者は、「極端な例だが、仮に研修医を専門家として申請されても、それを認めていかざるを得ない」と語っている。

 化学療法専門医の定義を明確にして、新しく指定の要件にすることも考えられる。(同省がん対策推進室長の鈴木氏(前出)は、その可能性を「全くの白紙」として肯定も否定もしていない)。しかし、このように整備指針を厳格化しても医療の質が上がるかどうかはわからない。より深刻な本当の問題は均てん化することによって、各病院に孤立した専門医が生まれてしまうということかもしれない。

 化学療法の専門医とともに、放射線照射の専門家も不足している。均てん化を推進すれば医療資源は分散化せざるを得ない。これが医療の質に影響する可能性もある。

多様な連携を模索する時
 埼玉医科大学包括がん医療センター腫瘍内科教授の佐々木康綱氏は、「キャンサーボードを作ってレジメンの検討を加えても、専門家が1人であれば、日ごろ十分な議論を行うことができない。キャンサーボードは形骸化しまう危険性がある」と指摘する。そのための改善策として、同氏は「都道府県内の拠点病院の担当者が連絡を取り合って拠点病院間でレジメンを統一してみてはどうか」と提案している。

 一部の都道府県にも拠点病院を増やすことにこだわり過ぎる。もともと国の政策も拠点病院を多数設置することではなく、がん医療のハブとなる医療機関を地域に均等配置することにあった。したがって指定検討会の委員が、2次医療圏に複数の拠点病院を指定することに慎重になるのも自然な考え方といえるだろう。

 看板にあるように、診療を効果的に連携するにはどうしたらいいか。「連携」の字句が日本医師会の働きかけで入った経緯からもわかるように、開業医を含めたあらゆる医療資源をまとめ上げる拠点としての役割が期待されている。平成20年の整備指針を契機に、各拠点病院の装備は平準化された。次の課題は、地域の事情に合った地域ごとに潜在化している医療資源を動員したがん医療の新しい青写真を描くことだといえよう。