地域のがん拠点病院はどうなっているか?
 今回の拠点病院の指定更新を現場はどのように迎えているのか。今回、指定更新のポイントになったのは集学的治療に必要な放射線治療装置の有無だった。平成18年の整備指針(旧指針)で、設置が望ましいとされた要件が平成20年の新指針では義務となり、最近2年間は装置導入までの移行期間という位置付けだった。そこで、装置が導入できず指定を辞退した病院と、新しく装置を導入し、指定を更新した病院とを取材した。

写真3  雄勝中央病院の全景。院長の中村氏の発案で、動線が交わらない2つのユニットで構成、インフルエンザ流行時に威力を発揮した。

放射線治療装置を購入できず指定辞退
 秋田県湯沢市にあるJA秋田厚生連・雄勝中央病院(305床、18診療科、写真3)は、2年前に受けた拠点病院の指定を、来年度は辞退することを決めた。過疎化と高齢化が進む地域だが、ほかの地域の病院と同様、行う手術のほとんどはがんという事情は変わらない。地域医療の中核機関としてがんは避けて通ることはできない疾患だ。

 当然、放射線照射ができれば、集学的医療を行うことができるが、検討した結果、放射線施設導入を断念、拠点病院の指定の更新を辞退した。この結果、秋田県内の拠点病院は、秋田大学医学部附属病院を含め8病院となり、2カ所の2次医療圏に空白が生じることになる。しかし、これは拠点病院の意義を考えるうえで、大変示唆深い。指定辞退の理由を院長の中村正明氏は、「導入しても維持費を捻出できないと判断した」と語っているからだ。

雄勝中央病院院長の中村正明氏は「指定の有無にかかわらず、がん患者が来たらしっかり治療するだけ」と語る。

 昭和8年に設立された同病院は5年前に湯沢駅前から、車で10分ほどの現在の場所に移転したが、その当時は移転とともに放射線施設の開設も計画していた。しかし、大学病院が行った派遣医師の引き揚げによる医師不足と時期を同じくして地方に及んだ“小泉改革”の余波で病院経営は暗転、赤字経営に転落した。最大8人いた循環器の医師が1人となり、循環器科は休診、病院自体が存亡の危機に陥り、規模の縮小や市への移管などが公然と語られる事態となった。

 そこで立ち上がったのが患者と地元医師会の医師たちだった。入院患者らが中心になって同病院の医師不足解消を求めて署名活動を展開、地域住民3万7829人分の署名を県知事に提出した。地元の雄勝郡医師会の開業医らが交代で夜間救急外来の診療に当たった。湯沢市も救急医療の運営の助成など関連事業費約4700万円を計上。秋田県も後期研修を希望する医師の生活支援を行うほか、地元の商工会議所なども協力する地域ぐるみの支援の結果、「医師の充足率は100%を超えた。ようやく収支均衡を達成、借金返済のめどが立った」(中村氏)という。後期臨床研修を希望する医師も募集枠いっぱいの5人の応募があった。募集枠分の希望者を獲得した病院は秋田県内でわずか3カ所しかないという中での快挙だった。

 そうした経営環境を考えると、放射線照射装置の導入には慎重にならざるを得なかった。2年前まだ放射線照射が「望ましい」要件だったころは指定を受けることができたが、更新時には「必須」になったため判断を迫られることになった。放射線治療機器は最低でも3億円が相場。周辺施設を考慮するとさらに多くの出費を余儀なくされる。

 中村氏自身、導入の可否を検討するために、大学の放射線治療の教授に相談に出向いている。そこで返ってきた答えは、「導入できても、スタッフの確保は容易でなく、不採算は免れない」という厳しいもの。放射線照射が必要な患者は、隣接する横手医療圏の拠点病院である平鹿総合病院に送ることで対応できることも、放射線照射の断念という判断を後押しした。

 拠点病院を辞退しても、同病院のがん診療に大きな変化はないと中村氏は強調する。「がん緩和ケア病棟もあり、外来化学療法は県内でも先駆け的な存在。手術も十分行っており、放射線照射以外は東京の拠点病院と遜色ない」と胸を張る。日本ではなかなか使用が進まない疼痛管理におけるモルヒネの使用は、世界保健機関(WHO)が“モルヒネラダー”の指針を公表した翌年には採用し、10年前までは秋田県内トップの使用量だった。

指定返上の風評が怖い
 「指定があってもなくても医療に変わりはない。患者の要望に合わせた医療を行うだけ」と語る院長だが、心配事はある。風評だ。がん診療連携拠点病院でなくなったということで、「雄勝中央病院ではがん診療をしなくなる」「十分な診療が行われていないのではないか」という誤ったマイナスメッセージが地元の住民の中に広がることが懸念された。現に、指定辞退を決めたことが明らかになった昨年11月には「湯沢・雄勝医療圏ががん診療の空白地帯に」と報道された。

 「指定されなくてもがん診療自体が空白になるわけでは決してない。指定の有無で、診療自体は何も変わらない。仮に空白と報道するなら、“空白になる。だから地域連携を推進しよう”という報道になってほしい」と中村氏は訴える。

 風評とともに、院長にとって悩ましいのは辞退によって失われる診療報酬上の拠点病院加算だ。中村氏は入院初日に算定される400点が失われることは、経営にとっては大きな打撃だと率直に語る。逆に、2年前に指定されたときは、診療自体に変更はないにもかかわらず収入増になったときは「率直にうれしかった」とも。「診療内容を何も変えていないのに、収入が増えたり、減ったりするのは変な話だが、それが国の方針ということだから」と同氏は苦笑する。

がん診療連携拠点病院、私はこう見る(3)
「指定辞退も見識の1つ」
(独)国立病院機構北海道がんセンター院長西尾 正道 氏
 放射線治療装置を保有していない施設は、やはり「拠点病院」から外れるべきです。切除できない疾患ではconcurrent chemoradiation( 放射線化学療法)が標準治療となっている疾患も多く、連携して治療装置を保有している病院に通うといっても現実には無理です。また病院経営上、患者さんの奪い合いを行っている状態であり、他院に患者さんを通院させることはしないでしょう。放射線治療装置がないために、切る必要のないものまで、無理して外科治療のみしか説明しない外科医、さっさと照射した方がいいのに、効かない抗がん剤治療に固執する内科医、こうしたバランスの崩れたがん治療はいつまでも続きます。
 標準治療ができるという拠点病院の最低基準を維持するなら、当然放射線治療装置は必要です。また本当は、放射線治療の専門医が常勤していることも最低条件とすべきです。さらに都道府県の拠点病院としては小線源治療もできることは最低条件だと思います。
 しかし今後の放射線治療は都道府県単位ぐらいの規模で適度な集中化を行い、役割分担すべきです。これほど高精度な治療となり、高額な機器ですので、あちこちに高額機器を導入しても治療精度の質は担保できませんし、診療報酬においても収支を取ることができません。無理すれば、医療費を高騰させるだけです。
 集中化しなければならない治療と、分散した装置で簡単に照射する場合を分けて考えるべきです。そして内容を伴わない肩書を持った拠点病院は減らすべきでしょう。拠点病院といっても診療科によってはレベルが低く、「偽装がん医療」に近い施設もあります。拠点病院の看板で、患者さんをミスリードしているケースも見られます。今回、拠点病院の指定を辞退した病院長はむしろ本当に見識のある方なのかもしれません。(寄稿)