肺がん専門は拠点病院の制度に合わない
 「では今回は見送りに」という垣添氏の無情な一言に、意外という表情を隠しきれない担当者もいたが、多くの説明者は沈黙した。しかし山口県は抵抗した。

 同県は山口大学医学部附属病院を都道府県拠点病院とし、地域拠点病院を6カ所擁していた。新規に推薦したのが、宇部・小野田保健医療圏の山口宇部医療センターだった。この医療圏には都道府県拠点病院の山口大学医学部附属病院があった。山口宇部医療センターの年間新規入院がん患者数は1242人で、入院患者の50.4%を占めるが、6〜7月のがん手術のうち肺がんが44件(胸腔鏡下手術39件)に対して胃がんと肝臓がんの手術がゼロで、大腸がんと乳がんがともに3件と、データの上からは肺がん治療に比重を置いた体制がうかがえた。同県が厚労省に提出した申請書にも、「本県のがん死亡で一番高い死亡率を示している肺がんについては、手術件数では全国トップクラスの実績(年間200件以上)を有し、また、県内医療機関と連携し、肺がん患者を受け入れる(年間700人)とともに各種研修を実施するなど、県内における呼吸系がん医療水準の向上に大きな貢献を果たしている」とあった。

 発言の口火を切ったのは、(財)日本対がん協会常任理事の関原健夫氏。「“肺がんセンター”なのに拠点病院になるというのはこの制度との整合性が取れない」と発言。これに対して、山口県担当者は「緩和医療も行っており、肺がんを強調したのは医療の専門性をアピールするためだった」と説明したが、国立がんセンターがん対策情報センター長補佐の若尾文彦氏が「肺がんだけではなく乳がんや胃がんなども含めた5大がんすべてを診る能力があるという拠点病院の原則から外れている」と指摘した。こうした議論を受け、垣添氏は「将来的にはこうした専門病院の扱いも検討する必要があるが、今回は非承認ということで。県には申し訳ないが」と述べ、一件落着となった。

 この決定を受けて説明に当たった若い山口県担当者は、傍聴席から見ていてもがっかりした様子だった。しかし背後に座っていた上司に促され、その後3県の審査が終わったところで再び発言を求めた。

 「山口宇部医療センターは肺がん以外の症例も増やしている。1年後に再検討するということで今の時点で、条件付きで承認してもらえないか」。対して垣添氏は「それは、もう終わった話。病院の機能を充実させて、次の機会にまた申請してほしい」と半ば諭すように話しながら、山口県の訴えを退けた。

 9時30分に始まった検討会は、昼食休憩をはさみながら、47都道府県と最後に独立行政法人に移行する国立がんセンター(東京都)の今後の取り扱いを議論して18時まで続いた。この日、従来からの指定更新が認められたのが319病院、昨年認められたばかりで指定継続となった病院が37病院、新規指定については都道府県が推薦した29病院から見送りとなった10病院をさし引いた19病院となった。この結果、4月1日時点の拠点病院は375病院となることが決まった。

拠点病院指定の魅力はブランド力
 拠点病院の指定要件は、平成20年3月1日付の厚労省健康局長通知(健発第0301001号)によって強化された経緯がある。このとき公表された指針では、5大がん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん)について集学的な治療や緩和ケアを提供できること、外来化学療法を実施しつつも入院できる環境にあること、レジメンを検討するためのキャンサーボードの組織を持っていることなどが必要条件として明記された。

 集学的な治療の中には手術はもちろん、専門的な技能を有する化学療法を行う医師や放射線照射が可能であることなどが含まれる(後で紹介する秋田県の雄勝中央病院のようにリニアックを導入することができず、指定更新を辞退した病院もある)。さらに相談支援センターを設けて患者や家族の相談にのることができること、院内がん登録を行うための実務を担うスタッフを1人以上配置することなどが求められている。

 都道府県ががん診療連携拠点病院にこだわる最大の理由は指定されたというブランド力だ。拠点病院に指定されるということは上記のようながん診療体制が担保されていることを意味し、地域住民にアピールする効果は高い。経済的な「利点」としては、国と都道府県から拠出される補助金、さらにがんで入院する患者1人につき初日に400点が加算されることなどが挙げられる。厚労省健康局総務課がん対策推進室長の鈴木健彦氏は、「拠点病院になるということは、相談支援センターの設置やがん登録の推進などの負荷をお願いしていることになる。当然の対価であって、補助金や診療報酬を利点ととらえるべきではない」と指摘する。

補助金の地域間格差は当然
 拠点病院が地域のがん診療の底上げに寄与していること自体を疑う声は少ない。しかし、均てん化という観点からは課題もある。その1つが拠点病院に交付される補助金の額だ。2200万円の自治体もあれば埼玉県にようにわずか200万円というところもある。均てん化議論の中でもしばしば取り上げられるこうした地域格差の発生について、同省は問題ではないという姿勢だ。鈴木氏は「補助金を一律に交付すべきという議論はナンセンスだ」という。補助金は国と都道府県とで折半するため、都道府県の拠出金額が国からの交付金額になる。「がん医療の主体は都道府県であるべきで、国がいちいち主導することはできない。都道府県がどう考えているかがすべて」(鈴木氏)。

 指定に関する検討会の委員の1人で、広島県健康福祉局長の佐々木昌弘氏も、「補助金の額に地域差があっても、それは都道府県の考え方の違いの反映したもので、全国一律にすべきという護送船団的な考え方をとる必要はないと思う。都道府県のがん医療への取り組みを示すバロメーターの1つであることは確かだが、ほかにも多くの指標を合わせて評価していく問題だ」と語り、補助金だけを取り出して地域格差があるという論法は誤りだと指摘する。

がん診療連携拠点病院、私はこう見る(2)
「訪問調査して真の実力を把握すべき」
埼玉医科大学国際医療センター包括的がんセンター腫瘍内科教授佐々木 康綱 氏
 がん診療連携拠点病院は過大に評価されています。放射線照射の施設の有無は誰が見ても達成されているかどうかがわかります。しかし化学療法の専門家がいるかどうかとなると曖昧なものになりがちです。現に、日本臨床腫瘍学会が定める薬物療法の専門医はもともと絶対数が少ないことに加えて、偏在しており、専門医が全くいない拠点病院も多いのです。
 埼玉県では、薬物療法の専門医がいるのは埼玉医科大学と防衛医科大学校の2カ所。残りの拠点病院には薬物療法の専門医はいないことになります。がん診療連携拠点病院といえば、水準が高いがん治療が行われていると国民は思うはず。拠点病院の医療水準について目標を決定する狙い自体はよいことだと思いますが、現実はどうかという実態把握ができていないことは大きな問題です。自治体から提出された書類を委員会が審査しているのでは実効性がある指定になっているか疑問もあります。
 私は専門家チームによるその病院への訪問調査が必要であると考えています。難しく考えなくても、専門家チームが出向いて担当医に聞き取り調査を行えばおおよそのことはわかるはずです。
 拠点病院を擁する都道府県でも、拠点病院に指定されれば「仕事はおしまい」と考えている担当者がいるのではないでしょうか。1つの拠点病院ですべての医療ニーズを満たすことはできないし、それを目指すのは無駄も多い。例えば、すべての拠点病院に血液腫瘍の専門家が不可欠なわけではありません。しかし、地元で血液腫瘍の患者を診る医療機関は必要であり、どこかに拠点となる病院を設置する必要があります。拠点病院同士で相互補完するネットワークづくりを進めることが意味を持つはずであり、自治体はそうなるよう支援していくべきです。(談)