この患者さんは、めまい、ふらつきが主訴で、食欲不振、倦怠感などの身体症状も呈していた。進行がんで、がん性腹膜炎も併発しており、そのために食欲不振、倦怠感が生じたと考えても不思議ではない。しかし、担当医が「がん治療で生じる症状としては定型的ではない」と考え精神腫瘍科へ併診となった。

 診断はうつ病であり、抗うつ薬の投与で上記症状が消失したことを考えると、食欲不振、全身倦怠感などはうつ病の症状と考えることができる。また、めまい、ふらつきもうつ病治療により改善したことから、これら身体症状もうつ病由来と考えられる。

 患者はめまい、ふらつきなど、うつ病によって生じた身体症状を治療の副作用と考え治療を中断していたのである。うつ病治療により、上記が消失したこと、意欲の低下も改善したので治療が再開できた。

II うつ病とはどのような病気なのか
 うつ病という病気はどのようなものであろうか。

 表1はうつ病を診断するための基準である。うつ病という病気は齠)抑うつ気分、興味・意欲の低下、という症状を中心として、齡)精神症状、および齦)身体症状を呈する病態である。うつ病といえば、気分が落ち込む病気と考えがちであるが、上記の例および表1に示したように様々な身体症状を呈することが多い。

 うつ病患者は主訴として身体症状が多いことを覚えておきたい。


III がん患者でうつ病はどの程度みられるのか
 それでは、がん患者におけるうつ病の頻度はどの程度なのだろうか。

 現在までの調査研究では、治療中がん患者6%、再発乳がん患者7%、切除不能肺がん5%である(表2)。これら患者の多くが化学療法を受けていることが予想されるので、化学療法を受けている患者におけるうつ病は稀でない。

IV どのような人がなりやすいのか。

 うつ病になりやすい傾向に関する調査では、初期治療時の抑うつ、神経症傾向、社会的な支援の欠如、痛みなどが関連している。