がんの化学療法では全身状態(PS)が治療を続行するか中止するかの重要な指標になる。このPSの悪化の背後にうつ病などの精神症状が隠れているケースがあり注意する必要がある。このような精神が併発するとPSが実態よりも悪化しているように見えることすらある。精神科のコンサルトを含め、有効な治療的介入によりPSを改善させ、化学療法を続け、がん化学療法を成功に導くことができる。精神腫瘍学の第一人者である大西秀樹氏に解説してもらった。


 近年、化学療法の進歩は著しく、生存期間の延長およびQOLの向上に寄与している。副作用対策も進み、患者負担もかなり軽減してきた。それにもかかわらず、患者が治療を止めたいと訴えてきたとき、急に患者の体力が落ちたように感じるとき、副作用と思われる症状が出現したとき、治療の中止を考慮しなければならない。

 しかし、もう一つ考えなければならないことがある。これら症状の背後に精神疾患が潜んでいる場合があるのだ。化学療法を受ける患者での精神疾患は頻度が高く、かつ治療で回復するものであるから、その対応は急務である。

 本稿では化学療法時における精神症状とその対策について述べたい。

I 患者が化学療法を中止したいと訴えてきたとき
 次のようなケースではどのように対応すればよいだろうか。

58歳、女性
【受診理由】
 治療開始後からのめまい、ふらつき。

【現病歴】
 X年、腹部膨満のためA病院受診。腹水を認め、精査の結果、乳がん、がん性腹膜炎の診断。タモキシフェンによる治療開始となる。

 治療開始後まもなく、めまい、ふらつきが出現。頭部MRI、耳鼻科での診察で原因を同定できず。めまい、ふらつきが辛いことから本人は治療の中止を希望。開始後4カ月、ホルモン療法は中止となり、以後は症状緩和のみを行うことになった。

 ところが、治療中止1カ月後の外来で、症状が改善しないことから、担当医が精神疾患の可能性を考え、精神腫瘍科受診となる。

【初診時所見】
医師:最近いかがですか

患者:めまい、ふらつきが辛くて。治療を止めても変わりません

医師:それは大変ですね。では、ご気分はいかがですか

患者:気分が滅入っています。何もする気がでません

医師:夜眠れますか

患者:眠れません。昼寝は出来るかと考えて横になるけど、眠れません

医師:食欲はありますか

患者:ありません、義務的に食べています。美味しくないし