がん患者の隣にマムシの咬傷患者

 多くの患者が集まる拠点病院とは異なり、同センターでは、がん医療は全体の医療の一部でしかない。昨年、受け入れた救急患者は1514人。がん化学療法の先頭に立つ三阪氏も、救急患者を診る。地域の中核病院である以上、様々な患者が訪れる。看護師長の松枝文子氏によれば「90歳を超える高齢患者の肺炎、アルコール性肝炎、うつ病の自殺未遂、マムシの咬傷に混じってがんの患者さんを診る」という具合だ。ちなみに同センターでは、TVドラマ「Dr.コトー診療所」の舞台になった孤島の診療所に交代で医師を派遣する業務も担っている。

 拠点病院のような専門性の高い病院にがん患者を集約できれば、医療スタッフの錬度も上がり、治療の水準を維持するうえでも好都合といえるだろう。厚生労働省のがん医療の均てん化政策もこうした観点から進められてきた。しかし、地方に目を転じると同センターのように、様々な医療の合間にがん医療を進めなければならない病院が存在することもまた事実だ。「進行大腸がんの標準レジメンであるFOLFOX(5-FU/ロイコボリン/オキサリプラチン)が適応となる患者が年間2人しか来ないという病院も存在する。こうした病院で、どうやって治療水準を維持していくかは、日本の地域がん医療の大きな課題だ」と自治医大OBで地域医療に身を投じてきた三阪氏は強調する。

チームで東京の癌研の研修に参加
 三阪氏自身、もともとが外科医で、がんの化学療法に通じていたわけではなかった。転機となったのは、2006年に受けた東京の癌研有明病院での研修。がん化学療法の本場で同氏が得た印象は、「抗がん剤は毒だ」というもの。「毒だからきちんと管理しないといけないと思った」

 三阪氏ががん化学療法を学んでいたそのころ、癌研有明病院化学療法部長の畠清彦氏は癌研のノウハウを他院に伝授するための「がん薬物療法実践研修プログラム」を準備していたが、プログラムの企画立案に三阪氏も関わった。第1回の研修には霧島市立医師会医療センターから、外科部長の二渡久智氏、がん薬物療法薬剤師の砂田和彦氏、がん化学療法専門看護師の新村弥生氏とさらに三阪氏の4名が参加した。

 この研修制度は、現在も癌研有明病院で続いている。研修の期間は全部で5日間。参加費は不要だが、旅費などは参加者が負担する。がん化学療法の現場を視察するとともに、入門レジメンとしてmFOLFOXは実際に行ってみる。患者用の説明資料の作成もカリキュラムに含まれることから伺えるように現場で必要なスキルの習得に特化した研修システムだ。また、癌研有明病院が院内で作成した資料のほぼすべては教材として参加者に提供される。

 この研修の最大の特徴は、医師、看護師、薬剤師が1つのチームとなって寝食をともにして参加する方式にある。化学療法の知識の習得とともに医療チームの醸成を視野に入れたシステムといえるだろう。当初、外科部長の二渡氏は参加に消極的だったという。医師としては三阪氏が参加しているのだから自分は参加しなくてもいいのではないかと難色を示したが、説得して研修に参加してもらった。「これが勝因だった」と三阪氏は語る。「おかげで、霧島に戻っても外科・内科の連携もとてもスムーズにできている」