鹿児島県の霧島市立医師会医療センターは病床254 の公設民営病院で常勤医師は19 人。夏には敷地内を蛍が飛ぶ典型的な田舎の病院だが、ここで外来化学療法を実践するスタッフたちの活動とCancer Board の働きをルポする。がん医療専従医師はおらず、救急そのほかの医療と掛け持ちしながらFOLFOX やFOLFIRI など、基幹病院と同じレジメンを施行。専門医はいなくても、婦人科や血液がんも手がける。


 2008年10月21日――。

 この日、霧島市立医師会医療センターで同院初めてのセツキシマブの投与が行われた。大腸がんに対する抗体医薬セツキシマブが認可されて日が浅く、全国では66番目の使用だったが、「九州では栄えある第1号」(同センター地域医療部長の三阪高春氏)となった。投与を開始してほどなく、患者に高度の呼吸困難が出現、SpO2は94%に低下、蕁麻疹様発疹も認められた。grade3の有害事象だ。すぐに投薬を中止、ヒドロコルチゾンを投与して軽快した。

 患者は男性で49歳と若く、ほかに治療法はない。治療を継続するかどうかが、院内のがん専門会議であるCancer Boardに議題としてかけられた。結論は、流速を半減させて治療を継続。その方法で投与を再開したところ、インフュージョンリアクションが現れず、治療を完遂することができた。1年を経過した現在、患者はSD(stable disease)の状態で、仕事にも復帰している。

 セツキシマブの使用は初めてだったが、同院ではB細胞非ホジキンリンパ腫患者にリツキシマブを使用した経験があった。半減速投与は、初回投与からインフュージョンリアクションを発症しやすいことが知られるリツキシマブの対応に倣ったものだ。

 有害事象の出現は歓迎できるものではないが、出現したときにどのような対応ができるかで、その医療機関の真価が問われるという側面もある。「このセツキシマブの件はCancer Boardが有効性を証明する1例」と三阪氏は胸を張る。「当病院のような地方病院でも世界標準の治療を実行することができる。その際には活きたCancer Boardの存在が欠かせない」

化学療法の中核メンバー(前列左から看護師長の松枝氏、看護師新村氏、後列左から薬剤師の岸本真氏、地域医療部長の三阪氏、薬剤師主任の砂田氏)

国療養統廃合で公設民営に
 鹿児島空港からタクシーで20分の距離に位置する霧島市立医師会医療センターの前身は、国立療養所霧島病院。1980年代に厚生省(当時)が推進した国立病院・療養所の再編計画を経て、自治体が設立し姶良郡医師会に運営を委託する公設民営の現在の姿に至った。病床数は一般病床が250に感染症病床が4床。医師は19人、看護師は142人、薬剤師は6人(2009年4月1日現在)。九州屈指の鮎の釣場として知られる霧島川が近くを流れ、夏には蛍が乱舞する風光明媚な田舎に位置する典型的な中規模地方病院である。

 霧島という土地の特徴から院内敷地のどこを掘っても温泉が出るため、職員宿舎は全戸温泉完備というのも自慢の1つだ。

 手術や外来化学療法は行っているものの、放射線照射施設がないことから、国のがん診療連携拠点病院に指定されることはない。がんの薬物療法の専門医を雇用することも、今のところ困難だ。それでも、がん医療を進めなければならない。