切除不能膵臓がんにゲムシタビン+トシリズマブの臨床試験
 薬剤による制御はどうか。

 向山氏は炎症性サイトカイン、特にIL6の働きを止める治療法の開発に期待を寄せる。IL6の働きを止める、もしくは抑制する方法としてはIL6の受容体への結合を阻害する方法がある。すでに、日本国内ではIL6受容体抗体トシリズマブ(販売:中外製薬)が関節リウマチの治療薬として広く使われていることから、この薬剤の適応拡大に期待をかける。

 現在、入院患者のIL6の測定を行い、IL6の臨床的な意義を確立した後に、治療薬を悪液質患者に投与する基礎的な検討に着手する予定だ。

 炎症が末期がんばかりではなく、がん全般の増悪因子である可能性が高まった。薬剤応答性に関わっている可能性も出てきた。最近では、薬剤によって炎症を制御する方法も模索され始めている。

 中外製薬は切除不能膵臓がん(局所不能又は転移性)の治療法開発に着手している。国立がんセンター中央病院、同東病院(千葉県柏市)と共同で、進行膵臓がんの標準治療薬であるゲムシタビンにトシリズマブを併用した臨床試験(第1相/第2相)を開始している。

 目的は2剤の併用による有効性、安全性、薬物動態の把握。適格基準には全身状態(PS)が0〜2と良好であることに加え、「CRPが2.0mg/dL以上であること」が明記されている。膵臓がんは予後が著しく悪く、しかも高頻度に悪液質を引き起こす。画期的な治療法を試みやすいがんの筆頭といえる。「がん治療におけるIL6受容体抗体の有用性を評価するための最初のデータはこの臨床試験から出ることになる」と向山氏は見る。

 ゲムシタビンの代表的な副作用は骨髄抑制であり、サイトカインの働きを抑制するトシリズマブにも敗血症、肺炎などの重篤な合併症が警告されている。併用する場合は感染症へのより一層強い注意が必要になりそうだ。

国立がんセンター東病院肝胆膵内科の光永氏は膵臓がんの治療に抗IL6R 抗体療法を試みている

 国立がんセンター東病院でこの臨床研究を進める医師の1人である、消化器内科医員の光永修一氏は「国立がんセンター中央病院との共同研究で、切除不能進行例で全身化学療法が可能な330例で血中のIL6とCRPの濃度と症状との関係を検討、CRPが2.0mg/dLを超えると症状が悪化することがわかり、被験者エントリーのカットオフ値とした。キャッスルマン病の治療レジメンである8g/kg2週間隔で、感染症を警戒しながら慎重に進めている」と語った。

暗黒の疾患克服への足がかりへ
 がん悪液質というとターミナルケアの領分であり、積極的な治療法はないと見られてきた。しかし、炎症というキーワードを手がかりに、画像診断や腫瘍マーカーでは把握できないがんという疾患像が明らかにされつつある。炎症の亢進が薬剤応答までも左右しかねない可能性もでてきた。つまり、ターミナルケアばかりではなく、これまで考えられていた以上に早期の抗炎症治療介入の重要性が明らかになりつつある。まだ、がんと炎症との関係に注目した研究は少ない。一部の動きに過ぎない。しかし、がん治療の新しい1ページを開く気運が出てきたことは確かなようだ。