では、炎症を制御することができるだろうか。現在までに医師が使うことができるツールは2つある。1つは炎症性サイトカインやその働きを封じる医薬を使う方法だ。関節リウマチやキャッスルマン症候群のような高度な炎症を伴う疾患の治療法としてTNFやIL6受容体に対する抗体医薬が実用化している(後述)。この抗体を使う方法は既に臨床研究が始まっている。もう1つは意外にも炎症を緩和する食品を利用することだ。

「プロシュア」は1パック240mL。EPAにはがん誘発性体重減少(CIWL)を抑制することが期待されている

 2009年6月に一般食品として市販された飲料(「プロシュア(キャラメル味)」(販売:アボットジャパン、写真)が一部の緩和医療の専門家を中心に注目されている。1日2パックを通常の食事に加えて取ることによって、多価不飽和脂肪酸の1種、エイコサペンタエン酸(EPA)を2.2g摂取することができる(亜鉛やビタミンC・ビタミンEも入って1パック300kcal)。魚油に含まれるEPAは、その代謝過程において抗炎症性の物質を産生することから、炎症性の症状を改善する効果が認められている。海外では、静脈から投与するEPAを含有する脂肪乳剤や濃厚流動食が開発されている。ちなみにEPA2.2gをマグロから摂取するには、マグロの魚肉1kgを必要とするという。

 三木氏は、75歳の直腸がん・多発肺転移(stage IV)の患者にプロシュアを摂取してもらった症例を示す。受診時は発症前70kgあった体重は50kgとなり、1日の多くを臥床して過ごす状態にあった。三木氏の悪液質分類では最も悪いD判定だったが、1日2パックのプロシュアを通常の食事に加えたところ、2週間後にCへと改善、さらに1カ月後にはA判定となった。CRPも受診時は1.3mg/dLだったが、1カ月半後には0.5mg/dLに低下した。この結果、当初無理と判断されていたFOLFOX(5FU/ロイコボリン/オキサリプラチン)をフル用量で施行できるまでになった。また、減少していた体重も1カ月で55kgへと増えた。

 最初の受診から2カ月を経過した時点で退院した。FOLFOXを2サイクル行った時点でアレルギーが出現したため、オキサリプラチンをイリノテカンに切り替えたFOLFIRIにベバシズマブとの併用療法を3サイクル実施した。4カ月後では体重58kg、CRPは0.3mg/dL、アルブミンは4.0g/dLとAを維持していた。肺転移巣は画像上、数、大きさともに増悪は認められない。三木氏は同氏の悪液質分類を指標に、プロシュアの集学的治療の一環として有効性を検討する前向き臨床試験を準備中だ。

 向山氏もこの食品に注目する専門家の1人。「プロシュアについては海外でも多くの臨床研究があり、当院(癌研有明病院)でも入院患者への給食時に支給してもよいと思う。そのための準備を進めている」と語る。ただし、「あまり炎症が進んでいない人はEPAの摂取でも対応できそうだ。しかし、進行するとEPAで対処することには限界があるかもしれない」とやや慎重な見方も示した。

 まだプロシュアが真に有効かどうかの判定は今後の臨床試験の結果にかかっている。販売元のアボットジャパンも臨床試験を計画していることを明らかにしている。

成長ホルモンの異常をリセットする

 一方で最近、成長ホルモン(GH)→インスリン様成長因子(IGF)→筋肉・骨量の増加という最も基本的な系のかく乱も大きく関与していることが明らかにされてきた。脳下垂体から分泌されたGHは、肝臓に到達してIGF-1分泌を促す。本来、GHが多くなれば、IGF-1の産生量も増大するはずであるが、がん患者では、GHは健康人よりも多量に産生されているものの、IGF-1の産生量は健康人のときよりも減少している。IGF-1が十分量生産されないので、それを上昇させようと、GHが多く分泌されている状態になると見ている。IGF-1を増やさないと患者はやせていく。そこで低用量のGHを投与することによって、フィードバック作用を誘発し、IGF-1産生を増やす治療法が有望視されている。