武藤 真祐 Shinsuke Muto, MD, CPA, MBA, PhD
年齢 : 38歳(2010年1月現在)
現在の職業 : NPO法人理事長、医師
現在の勤務先 : NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会
出身大学・学部・卒業年度 : 東京大学医学部医学科 平成8年卒
東京大学大学院医学系研究科博士過程 平成14年修了
臨床専門分野 : 循環器内科
+αの道に入る前の臨床経験年数 : 10年
+αの道に入った後の臨床経験年数 :1年
+αの道に入った際の年齢 :35歳
+αの道の種類 : 経営
何故+αを選んだのか

 私は、開成高校から東京大学に進学、医学部を卒業後、循環器内科医として臨床、研究に従事しました。元々医師になろうと思ったのは、6歳に遡ります。きっかけは野口英世の伝記を読んだことです。彼の生き様から努力をすることの大切さ、人を救うという医師という職業のすばらしさを知りました。その一念で、私は医師となりました。そして目の前の患者さんを救うという非常にやりがいのある仕事をしていました。しかし臨床現場に立つ中で、「もっと多くの人々を救いたい」という志を強く持つようになりました。また、医療現場では疲弊している医師も多く、個々の医師の頑張りでは立ち行かない構造的な問題がある、と感じていました。

 しかし、どうやったら自分がその志を達成し、構造的な問題の解決に貢献できるのか大変悩みました。医師として医療界を動かす立場になるには、数十年の年月が必要です。

 今、山積される問題を目の前にそんなに長い時間をかけることはできません。考え抜いた末の結論が、医療現場をいったん離れ、他業界での知識やスキルを学び、もう一度医療界にそれらを持って帰ることでした。

 そのための第一歩として、「経済の流れも含めた社会の仕組みを深く理解すること」「問題を解決する高い技術を習得すること」を目標に2年間をトレーニング期間と設定し、戦略コンサルティング会社に入ることを決意しました。

どのようにして+αの道に入ったのか

 実は当初は海外MBAへの留学と戦略コンサルティング会社に入ることのどちらにするか迷いました。10人ぐらいの海外MBAホルダーにヒアリングに行ったところ、ある人から、もう実践だよ、というアドバイスをいただきました。振り返ってみると、医学部の最後の2年間に医学生として学んだことよりも、研修医の2年間で身に付けたことの方がはるかに役に立っています。

 そこで紹介されたマッキンゼーに話を聞きに行きました。すぐに分かったのは、マッキンゼーのコンサルタントは誰もが快活で賢く、何と言っても楽しそうに仕事をしていること。「価値を創造する」ことを至上価値におき、それに向かってチーム全員が力を合わせていることが分かりました。

 それまではあまり現実として考えていなかった転職もとても魅力的なオプションに思えてきました。そこで思い切って私の中高の先輩でもあり大変尊敬しています東京大学大学院医学系循環器内科教授の永井良三先生にご相談しました。何度かの説明の後にご納得していただき、マッキンゼーへの転職が決まりました。

+αの道はどうであったか、何を学んだか

 マッキンゼーは入社前に想像していた以上に素晴らしい会社でした。ここで得られたものは大きく3つ(!)あります。

 まずは、問題解決方法などを筆頭とするスキル面です。マッキンゼーがクライアントに提供する価値のほとんどは問題解決という価値です。まずは問題を定義すること、もれなくだぶりなく問題を分解すること、全てに優先順位をつけること、などはその一部ですが、今では私の全ての思考のベースになっています。

 次に、素晴らしい仲間です。マッキンゼーではチームで最高のアウトプットを出すことが求められます。極端な個人プレーやチームの足をひっぱるような行動はアウトプットのバリューを間違いなく下げます。マッキンゼーには2つの使命があります。「顧客企業の成長」はもちろんですが、「人材の育成」も挙げられています。優秀な人材のもつ才能を最大限に引き出す組織であること、もマッキンゼーの使命です。チームとして互いに成長しあうこと、これを改めて学びました。

 最後に、アントレプレナーシップマインド(企業家精神)を手に入れました。今までの私は組織の中で自分の価値を最大化し、評価してもらうことを強く意識してきました。しかし、自分がスキルと素晴らしい仲間を得て自信がつき、また新しい価値を創造することが最高の喜びであることが分かり、自分で何かを創りだしたいと強く願うようになりました。責任をもってフロントラインに立ち、リスクを冒しながらゴールに向かってチームをリードして、今までにない価値を世の中に生み出していく、これ以上に興奮することはない、とまで考えています。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか

 マッキンゼーはMBAの代わりに行ったということもあり、当初から2年と考えていました。ですからこの2年間でビジネスのコアスキルは全て学ぶつもりでした。そこで、マッキンゼーにいる頃より、アメリカの公認会計士試験の勉強を開始し、早稲田大学大学院ファイナンス研究科のMBA課程に通いました。マッキンゼーの仕事をやりながらの勉強はかなり大変でしたが、CPA certificateとファイナンスMBAをともに取得することができてほっとしています。

 さて、マッキンゼーを退職した後に、アントレプレナーシップ魂で多くの活動を開始しました。その中でもNPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会の立ち上げは私の最も思いの強いものです。

 今更言うまでもありませんが、ヘルスケア界には課題が山積しています。私は、それらの個別の課題については概ね解がでていると考えています。不足しているのは、それらの解決を自らリスクをとって実行する人材、「リーダー」の存在です。多くの議論がある中、欠落しているのは「それを、誰が実行するのか」という点。ここが現在の課題を解決するのに大切なファクターであると考えます。

 このような問題意識のもと、「リーダーを生み出す活動が必要」との結論に行き着きました。 リーダーは最初からリーダーであるはずはありません。そこには、リーダーとなる過程、歩みがあります。リーダーシップの発揮には、「信念を持つ」「人々の共感を得る」「社会を動かす」という段階があると考えます。私たちが大変共感し教科書としている、「リーダーシップへの旅」という野田智義氏の著書には「リーダーとなる過程には『lead the self』『lead the people』『lead the society』の段階がある」と書かれています。私たちもまさにそのとおりだと考えます。

 したがって、まず学びとして、この段階をしっかりと踏むよう構成された年間12回のセミナーを提供します。すべての回で、各界の第一人者といわれるすばらしい方々を講師としてお招きしています。

 このような歩みにおいて、ひとつ決してヘルスケアリーダーに忘れてほしくない価値観があります。それは「死生観」です。ヘルスケアは、人の生死に密接にかかわる業界です。それは、医療現場の方々のみならず、周辺産業や政治・行政についても、言えることです。どうしたら人は幸せに死んでいくのだろう、どうやったらその幸せな死を迎えるように生きるのだろう、とヘルスケアリーダーは悩んで欲しい。そして、苦しみの中から、その生を実現するための医療のある姿を自分なりに確立していただきたい。

 すでに12回のセミナーのうち5回は終了しましたが、どの回も全て好評です。成功している理由としては、まず、素晴らしい講師です。通常ではこのようなセミナーではお話しされないような方も、我々の趣旨を理解し、サポートするために来てくださっています。大変ありがたいことです。

 次に、プログラムの作り方です。このような勉強会でよくあるのは、大きなテーマはあるものの、講師は誰か呼べる人にお願いするというパターンです。我々は12回のセミナーを通じ達成したいことをまず明確にし、それを実現するために各回のセミナー内容と順番を決めました。そしてそのセミナーのゴールを達成するうえで最適な講師を選びました。

 最後に、インプットとアウトプットの組み合わせです。各回とも、最初の2時間は講師の話を伺い、次の2時間は4−5人のチームに分かれてテーマに沿って議論を熱く交わし、それから1チーム2分で学びを全体に向けて発表してもらいます。最後に講師にコメントをいただき終了です。このように参加者は一方的に話を聞くだけではなく、聞いたことをベースにフラットで真剣に話す場を作ったことが満足度を高めている理由だと分析しています。

 私がマッキンゼーで学んだこと、医者時代とマッキンゼー時代に知り合った人脈、仲間たちがヘルスケアリーダーシップ研究会の活動を支えてくれているのです。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 私の現在の夢は、「人々が安心して快適に生きがいをもって暮らせる地域社会を創造する」ことです。これはもちろん医療だけでは達成できません。しかし、「安心」のコアは、誰もが迅速で丁寧でクオリティーの高い医療を受けることにあります。その上で、食の安全、住居の確保といったベーシックなところから、社会貢献、地域社会とのつながり、趣味などの生きがいが必要となります。

 これから世界が経験したことないスピードで高齢者社会が日本に訪れます。老老介護や孤独死が増えていく中で、日本は地域社会を定義し直し、再構築しなければなりません。その中心にあるのは医療です。医療や介護が非日常空間にあるのではなく、日常的な存在としてあること。そして、全ての生活をサポートするサービスが医療・介護を行う組織にゆるく結びついていること。安心が担保させて、生きがいと喜びがあふれていること。これが21世紀の街づくりのモデルになると信じています。

 ではどのようにしたらこの街づくりが可能となるのでしょうか。それは医療・介護のプロバイダーだけではなく、多くのサービス産業やインフラ産業を巻き込み、社会のミッションを達成するようチームを形成していくことによってのみ実現すると思います。現実と一定の整合性を維持しながらも、イノベーションにより新しい街づくりをこの国が創れるか、ここに21世紀の日本の幸せはかかっています。

 また、世界の先進国は日本の高齢者社会への対策をじっと注目しています。彼らもまたいずれこの問題に直面するからです。そうなると日本は高齢社会先進国として世界に手本を示すことも可能なのです。

 私個人は大変微力ですが、医療現場とビジネスを両方知る者として、またどちらにも人脈を持つ者として、この夢に身を捧げたいと思います。

ブログ・ホームページなど
NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会 http://www.ihl.jp/
祐ホームクリニック千石 http://www.you-homeclinic.or.jp
ご自身が紹介されたマスコミ媒体など
So-net m3, Phase 3, 日経メディカルオンライン