渡邉 百合子 Yuriko Watanabe, MBA, RPh
現在の職業 : 医療グループ本部 人財開発部部長
現在の勤務先 : 上尾中央医科グループ 協議会
出身大学・学部・卒業年度 : 東邦大学 薬学部薬学科卒
グロービス経営大学院 2008年卒(MBA取得)
臨床専門分野 : 薬剤師(内科・消化器科担当臨床薬剤師)
+αの道に入る前の臨床経験年数 : 20年
+αの道に入った後の臨床経験年数 :0年
+αの道の種類 : 経営

何故+αを選んだのか

 薬剤師時代の私は、民間巨大医療グループの基幹病院で、臨床薬剤師として日々患者さんと向き合い、様々なジレンマに悩まされつつも、信頼される医療の実現にはどうしたら良いかを模索し必死で過ごしていたように思います。チーム医療の言葉が生まれ、医師ばかりでなく、様々な専門職がチームを組み患者さんにとって最良の医療を提供する・・・、この言葉はすばらしいものですが、現実の医療現場ではそう簡単には進みません。例えば、薬剤師が薬剤適正使用のシステム作りに動き出しても、まず医師の裁量権の壁にぶち当たります。それを打破するため、院内のありとあらゆる方法を使い、様々な人を巻き込み、納得させるために費やすエネルギーは相当のものでした。その当時の私は、「闘う薬剤師」「過激な薬剤師」という代名詞そのものだったと思います。それでも、病棟で担当した患者さんの涙や最後まで戦い続けながらも無念の思いで亡くなられる姿を見て、このままでいいのか?医療の質を上げるためには、もっと組織全体を動かすことが必要ではないか?と考え続けていました。同時に自分の父の存在が大きかったように思います。父は医師で、76歳で亡くなる8ヶ月前まで「全ては患者さんのために」をモットーに働き続けました。そんな父の志が、常に自分の胸に残っています。

 臨床現場の問題意識を持ち、良い方向に解決できる方法を常に考えていたことが、ある偶然を引き寄せたと思っています。

どのようにして+αの道に入ったのか

 きっかけは、降って湧いたような突然の申し出でした。ある日グループの副会長である所属病院の院長から呼び出され、「グループの次世代幹部育成プロジェクトである経営企画開発室のメンバーに入ってくれないか?」と言われました。平成17年6月末のことです。その年の4月にグループ全事務職3,000人から5人の30代男性が選ばれ、経営企画開発室所属として現場を離れて幹部研修を開始している、メンバーの一人が諸事情により離脱することになり、その代わりに入って欲しいとのことでした。何故私が?と言えば、この経営企画開発室構想の立役者である関連病院の院長と、偶然1-2回、一緒にグループ内病院の病院機能評価受審を支援する活動を行った時、ストレートに自分の考えを伝える私の姿勢を院長が評価してくださり、推薦していただいたのだそうです。(この院長は自分のメンターでもあり、この方との出会いがなければ今の私はなかったと思います)安定期にグループに入職し、日々真面目に業務を遂行してきた事務部門の男性には、能力はあっても、自分の言葉で自分の意見を主張する能力がその時には欠けていたようです。「薬剤師の仕事は?私は事務職でもなく若くないし・・・」と問うと「薬剤師は辞めてもらう。もっと君の能力を大きく活かして欲しい」と言われました。寝耳に水、晴天の霹靂、自分はどうなるのか?と、頭が真っ白になりましたが、こんなチャンスは願っても来ない、せっかく頂いた役割、思い切って自分がやれることに挑戦してみよう、踏み出さずに止めてしまえば、自分が変えたいと思う医療現場はいつまでもこのままかもしれない。だめでもやってみるしかないと思い、1週間後この申し出を受け、その翌日から全く別の道に踏み込みました。直属の上司にも事後承諾という、トップシークレットの驚きの人事でした。

 偶然ではあったかもしれませんが、問題意識を持ち続け、常に変化を求めて動く姿勢が良い機会をもたらしてくれた、人との偶然の巡り合わせ、お互いの思いがうまく共鳴する瞬間は存在するように感じます。

+αの道はどうであったか、何を学んだか

 経営企画開発室で、経営に必要な知識の修得、経営をテーマにした論文作成、OJT(病院の副事務長として半年間勤務)を経て、グループの次世代人材育成に携わって欲しいと平成18年4月にグループ本部に新規開設した「人財開発室」(組織にとって人は財産という意味をこめて「人財」となりました)の室長に抜擢されました。と同時に、スタンダードの経営知識を身に付け、それを次世代の経営幹部に広めるという使命も頂き、MBA取得を目指して企業派遣の形で経営大学院に通うことにもなりました。

 専門職を離れてゼネラルな立場になり、同時に経営大学院で様々な職種の人と出会い刺激し合うことで、医療全体を全く違う視野で見ることができるようになり、医療現場の問題に留まらず、日本の医療・国政の状況と課題、そして日本の将来をも考えるようなっています。自分が求める「患者さんにとってあるべき姿の医療」の実現には、多くの人を巻き込み、動かすための「経営の質」が非常に重要で、マネジメント人財の育成が必須と考えています。また医療はサービス業、無形の価値あるサービスを生み出すために働く者の満足とロイアリティを生む仕組み、「サービスプロフィットチェーン」の構築が大切であると感じる日々です。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか

 医療は専門職の集団で、プロ意識を持つ人たちのパフォーマンスで、臨床現場が成り立っています。臨床での知識、臨床現場の課題や患者さんが求める医療の本質を知らずして、医療経営の戦略は立たないと思います。現在求められる医療安全や現場の投資対効果の検証には、臨床での経験や知識が判断基準となります。臨床の専門知識を持たない事務部門スタッフだけでは、適確な判断基準が不足することもあると思っています。今グループでは、コ・メディカル出身の病院事務長も数人誕生しています。また専門職の幹部には、専門領域のレベルアップばかりでなく経営感覚の必要性を訴え、健全経営なくして臨床の質を上げることができないことも伝えています。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 今医療界は大変革期に突入しています。医療経営も、医療提供体制も、医療人の育成そのものも、従来型の経験に基づく考え方だけでは道は開けないと思います。私の所属する医療グループは、現在医療・介護・福祉と幅広い業務展開を行い、日本でも有数な強大な医療グループであり、組織の変革そのものが医療界全体にインパクトあるものを提供できると信じています。当グループには、職員が12,000人います。ここに所属する職員が真の医療の価値を考え、一丸となってグループの存在意義を自覚して動き出せば、それは社会を動かす力を生みます。

 現在具体的な活動としては、学んだ経営スキルを組織に広めるために、論理思考+経営スキルを学ぶ次世代リーダー研修会を継続に行いつつ、グループ全職員を対象にした年1回の意識調査アンケートを行い、その結果分析を基に、働く人々の意識改革、思考改革が大切あることを示し、改革に必要な様々な働きかけを続けています。私自身はすでに若くないので、自分自身のみで夢の実現が出来るとは思っていません。でも養われた人の力は必ず伝播し、組織を強固にすると考えています。

 自分の志を持ち続け、可能性が無限大の若い世代のリーダーマネジメント人財を大量排出できる体制を実現させ、その力を医療全体へ、それが私の役割だと思っています。

ご自身が紹介されたマスコミ媒体など
「薬局」(南山堂)July2006 Vol.57 No.7
「保険診療」(医学通信社)2008年11月