吉田 穂波 氏 Honami Yoshida, MD, PhD, MPH candidate
年齢 : 35歳(2009年6月現在)
現在の職業 : 大学院生
現在の勤務先 : ハーバード公衆衛生大学院在学中
(Master of Public Health課程 Quantitative methods専攻)
出身大学・学部・卒業年度 : 三重大学医学部 1998年(平成10年)
臨床専門分野 : 産婦人科
+αの道に入る前の臨床経験年数 : ドイツ留学までは6年
アメリカ留学までは11年
+αの道に入った後の臨床経験年数 : 現在留学中
+αの道に入った際の年齢 : ドイツ留学時31歳
アメリカ留学時35歳
+αの道の種類 : 社会健康学、臨床疫学、医療システム、女性学、国際保健、リーダーシップ学
何故+αを選んだのか

 「ほかの人に喜ばれたい、社会にとって役立つ人間になりたい、人を助けたい」との思いから、医師そして産婦人科医の道を選んだものの、激務に次ぐ激務の中で、自分の勉強ができないことへの飢餓感を覚えました。ここ10年来、産婦人科医の激減、子育てと仕事との両立、女性のキャリア向上などについて考えてきたところ、学問的に医療システムを勉強し、医療を評価するスキルを身につけ、海外の女性たちの生き様を知り、グローバルな視野を身につけることが大切だと感じました。また、現場の若手医師が昔ながらのボランティア精神で診療に身を捧げ、疲労で医師としての生きがいを失ってしまうのを防ぎたいと思いました。

どのようにして+αの道に入ったのか

〜ヨーロッパ留学〜
 1998年に三重大学医学部を卒業後、当時研修病院として大変倍率が高かった聖路加国際病院にて、産婦人科研修を始めました。大学時代より、AMSA、世界青年の船、上智大学アジア研究所での若者の集まりに顔を出し、タイなどで途上国支援、及び国際保健視察をしており、国際社会で経験を積んで見聞を広めたいと思っていました。聖路加国際病院でのレジデント時代はアメリカ式の教育を受け、臨床と教育、臨床統計が強くリンクしている環境で育ちました。3年後には名古屋大学大学院へ進学しました。通常4年かかる博士号を3年で取得し、その後すぐに結婚。感染症内科医でSARS、エイズ、鳥インフルエンザなどを専門とする夫の臨床留学で2004年ドイツへ、2005年にはロンドンに渡り、臨床留学を行いました。
 それまではアメリカ留学に傾倒していましたが、夫のドイツ留学を機にヨーロッパでの臨床経験も面白そうだと思い、ドイツでの臨床にチャレンジしました。半年でドイツ語会話を学び直し、ドイツでの医師免許証書き換えのため書類作成の準備をしたうえで、フランクフルトにあるFrankfurt Südの産婦人科に臨床留学しました。その間第一子をフランクフルトで出産し、ロンドンに移ってからも初めての子育てに悪戦苦闘しながら臨床実習を続けました。一番の収穫は、産婦人科の枠を超えた総合内科診療の中で全身をトータルに治す医療の重要性に気がついたことです。国際社会で通用する医師となるべく海外で積んだ経験と子供を育てながら働くことが、診療の上で大きな力となっています。

〜そして帰国〜
 2005年に帰国した後、女性総合外来の立ち上げに貢献すると同時に、第二子を出産しました。そして昨年7月には3人目の女の子が生まれました。数多くの出産を取り上げたばかりでなく、自分も現在4歳、2歳、0歳、3人の子供の母です。続けて3人の子供を産んだその意欲、迫力に感心されることがありますが、これは、一生第一線の臨床医として働きたいという人生プランを持っていたからです。仕事と出産とのタイミングに悩む先輩医師を見ながら、外科系の医師の場合ブランクが長すぎると、手術や帝王切開など危険を伴う仕事に復帰するのが怖くなるので、まとめて産むのがよいと思っていました。実際にまとめて産んでみると、子供たち自身がお互いに遊びながら育ってくれるので、子育てがますます楽になりました。子供は1人でもう手一杯という人には、「2人目、3人目がいた方が楽ですよ」とアドバイスしていますが、個人の考えや事情もあるのでなかなか思い通りにいかないこともあると思います。女性総合外来を続けている中で感じることですが、とかく中学や高校では避妊、中絶と言った妊娠についてのネガティブなイメージを植え付けられ、妊娠・出産に対しポジティブなイメージを持てない女性が多くなっています。妊娠・出産は女性にとって何物にも代えられない経験であり、中学校や高校では女性としての妊娠・出産のアドバンテージや出産適齢期についてもっと教育すべきなのに、と感じました。実際女性は32歳を超えると妊娠率が急激に下がるというデータがあり、気づいた時にはもう遅い、と悔やむ多くの患者に接する中で本当に歯がゆい思いをしてきました。多くの若い女性は子供を持つことによる負担ばかりを見せられていますが、子供が増えることで人生の喜びも何倍にもなります。ここハーバードで勉強についていけなくて苦労しているとき、子供たちが競い合って抱っこ抱っこと私に群がってくると、こんな私でもこんなに愛されているんだ、と心が慰められ、癒されました。いろいろ大変なこともあるけれど、子供に囲まれて本当に幸せな留学生活をしていることに感謝しなければと思います。

〜ハーバード受験・再び留学へ〜
 帰国後ヨーロッパのトータルヘルスケアを導入し、日本発のWomen's HealthCareを実践していく中で、いくつものクリニカルクエスチョンにぶつかり、再びアメリカ留学にてEvidence based medicine (EBM)を学ぶ方向につながって行きました。
 普通は3人の小さな子供がいれば産休休暇中はゆっくり家庭で育児に専念するものかもしれませんが、出産後の休暇を利用し懸案のハーバードへ留学しようと考えたのには、長年温めていた自分なりのタイミングの測り方があります。なり手の少ない産婦人科医として過酷な仕事を続けているうちに、グローバルな情報が少なくなり、視野が狭くなる自分に気付き危機感を持っていました。経験を積んで10年以上経ってくると、患者への対応の仕方も、自分が責任を持ってとっさの判断で数多くの選択肢の中から選ばなければならなりません。自分の経験だけに頼るのではなく、根拠に基づいて自信を持って治療するためもっと勉強したいと思うようになり、学生に戻って謙虚に学んでみようと考えました。
 産婦人科医としてのクリニカルクエスチョン以外に、女性医師のライフ・ワーク・バランスや若手医師の発言権などについて外国ではどう対処されているかなど、研究テーマは多岐にわたります。減少し続ける産婦人科医をどう確保するか、特に女性医師をどう活用するべきかという、いわば産婦人科の未来像を誰も楽観的に語れない現状。それに対して当の女性医師である自分が、不満を言うだけでなく解決策を探して出来ることをしてみたい、という思いがいつも心の中にありました。産婦人科医師不足の現状で留学の話など切り出せる雰囲気ではない中、世界最高峰の教育を受けられるハーバードなら許可が出るのではないかと、こっそり受験をしました。受験のためには多くの書類を準備するのはもちろん、TOEFLはじめたくさんの学力試験を受ける必要があるため妊娠中こつこつと勉強をし、合格証を上司に見せたところ「吉田先生には負けました」と根負けされ、晴れて留学が実現しました。

+αの道はどうであったか、何を学んだか

 ドイツでは、臨床をしながら日本にはないことを学ぶことができました。患者と医師とが同格で治療方針を相談できるスタイル、検診が保険でカバーされており、検診率向上につながること、羊水検査や腹腔鏡など日本では侵襲的で敬遠されがちな検査を積極的に行い的確な診断をつける姿勢、助産師の立場が強く、産科医と役割分担しながら人員不足を補い、患者に寄り添う周産期医療を行っていることを垣間見ることができ、日本では得られない貴重な臨床経験ができました。

 ドイツ留学後、夫がロンドン大学のUCL/Tropical Medicine & Hygieneコースに移ったため、自分自身はイギリスでGeneral Physicianの診療を勉強する機会にも恵まれました。

 ここハーバードでも多くのことを学んでいます。勉強している内容は、倫理、政策、医療システム、途上国開発、医学に限らず健康に関するテクノロジー、栄養学と幅広く、エイズワクチンの開発などは大きなテーマです。従ってここでは医者に限らず経営コンサルタント、看護師、役人など様々な分野の人が学んでおり、健康を総合的に研究する体制が整っています。

 多くの専攻分野がある中で、何万人という人から得た情報をもとに昔からの治療が適切かどうかを判断したり、動物実験では得られない人間でのデータを検証したり、患者さん中心のオーダーメイド医療を追及したりする臨床疫学を中心に勉強しています。日本では片隅に置かれている公衆衛生学も、アメリカでは広い範囲が対象となり、大統領の政策作りにも関連するため、ここでは常に国策やリーダーシップとの関連で授業が進められ、とても面白いです。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか

 臨床医としての経験が、疫学・臨床統計学のデータ解析をする際に非常に役に立っています。授業でさまざまな疾患のデータを解析する場合も、聖路加国際病院で一通りの科をローテートしたこと、ドイツでヨーロピアンスタイルの治療法や手術手技を経験したことが生きています。また、Occupational HealthやCardiovascular DiseaseにおけるGender Specific Medicine、Reproductive Healthは自分の専門分野なのでとても楽しく学べて有意義です。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 日本での臨床データを使って、日本ならではのエビデンスを発信していきたいと思います。そのためには英語で世界的な学術誌に論文をたくさん発表すること、臨床と臨床研究とを行ったり来たりすること、経験を否定してエビデンスの数値だけに頼るのではなく、経験に裏打ちされ、経験者だからこそ胸を張って示せるような数値を発表していくことが必要だと考えます。自分のプラスα道の原点である、医師のQOLをないがしろにせず、生きがいを持って仕事を続けられるような体制を模索しつつ、常に患者様のためには何がいいか?と考えていき、家庭も仕事も両方楽しめるような生活スタイルを模索していきたいと思っています。

ブログ・ホームページなど
日経メディカルオンラインにてブログ連載中。
ご自身が紹介されたマスコミ媒体など
日経新聞、日経WOMAN, MORE, WITH, VERY, すくすく子育て、Cadettoなど。