裴 英洙(はい えいしゅ) 氏 Eishu Hai M.D., Ph.D, MBA candidate
年齢 : 36歳
現在の職業 : 医師
現在の勤務先 : 健康予防医学財団 理事
出身大学・学部・卒業年度 : 金沢大学大学院医学研究科
臨床専門分野 : 外科病理学
+α道に入る前の臨床経験年数 : 9年(外科4年、病理学5年)
+α道後の(留学後の)臨床経験年数 : 1年
+α道に入った際の年齢 : 34歳
+α道の種類 : 経営学修士(MBA)
何故+αを選んだのか

 約10年間の臨床経験を経て得たものは、「医学は科学、病院は非科学」という結論でした。キャリアプラン的には最前線で10年間は頑張って、その10年間の経験から問題抽出をし、その土台の上にもう一つのスキルを獲得しよう、という考えでした。いわゆる、Dual-Skilled Professionalを頭の中に描いていました。臨床の最前線で働いているからこそ見えてくる病院経営の問題・非合理性を体系的に理解し、最適解を皆が納得いく方法で提示できるスキルは何か、と考えたところ、MBAという選択肢に辿り着きました。

 経営の効率化と利害関係者の満足度の最大化は相反するものではなく、同時達成は可能と考えます。もちろん、難しいですが。そのためには、少なくとも両者の言語を理解する必要があると思います。経営側からの視点と医療側からの視点です。病院経営者は医療のことが分かっていない、医療関係者は経営のことが分かっていないと、お互いの不平不満をよく耳にします。小学校の授業で教えてもらった通り、相手の立場になって考えよう、この姿勢が大切なのですが。ただ、相手の立場を理解するには、両者ともに高度専門化の科学分野であるため、なかなか敷居が高いのが現実かもしれません。ならば、その言語を理解して仲介役がいればスムーズになるのでは、と考えました。

 特に、専門分化が激しい医療界に一石を投じるには、彼らの土俵の性質を理解・経験しなければ、革新的な言動や門外漢からの意見は斬新さのみを面白がられ、軽んじられる可能性があります。医療界を熟知しているからこそ発せられる価値ある言動を大切にしたいと思います。

どのようにして+α道に入ったのか

 MBAを考える時に、どこに行きたいかより、何をしたいかをまず考えました。私は、慶應義塾大学大学院(慶應ビジネススクール:以下、KBS)の田中教授の教えを乞いたい、というのが最大の動機です。田中教授は日本の医療政策の第一人者であり、数多くの政策立案や制度設計をされてきています。日本の医療界・ヘルスケアビジネス界で生きていくには、医療政策の決定プロセスや最新動向を学ぶ必要性は論を待ちません。もちろん、海外で学びたいという漠然とした希望はありましたが、①海外の医療体制や病院経営システム(特に米国)を日本へ完全適応させることが難しいこと、②将来的には日本で働くことを考えていること、③日本固有・独特の医療界の性質を理解したいこと、④学びながらも最前線の病院で働きたいこと、⑤日本の医療界にコネクションを保ちたいこと、を前提に考えた結果、最短・最速での目的達成のために、KBSを選びました。

 受験勉強は特にしませんでしたが、海外MBAも候補にあったため、英語に関してはTOEFLを中心に少しずつ勉強していました。KBSでは英語が必須ではありませんでしたが、国内MBAでも望まれるスキルであることは間違いありません。KBSの入試では、社会人経験から得た知見と経営学的視点をいかに結合させるかをアピールしました。幸い、KBSに無事に合格し、現在に到っています。

+αの道はどうであったか,何を学んだか

 KBSを選択したことは大正解でした。ビジネススクールでの基礎知識は、極端な話になりますが、国内外の他大学院でも学ぶことが出来るかも知れません。しかし、国内の一流企業や多種多様なバックグラウンドからの同級生と、各分野のオピニオンリーダーである教授陣とのコネクションは、KBSでの最大にして最強の財産です。もちろん、ヘルスケア分野からの同級生や卒業生も多く、企業の中枢にいる、または戻るであろう彼らに即座にアプローチできるつながりはKBSならではの貴重な財産です。

 また、2年生時から公的病院にて非常勤医師として働いていますが、KBSでの学習内容が現場での問題解決にリアルタイムで直結するダイナミズムは一種の快感ですね。また、日本独自の医療制度の変遷過程をリアルタイムで感じられることは、環境適応速度の最大化が至上命題である病院経営を学習する身にとって、海外大学院では得ることが出来ない経験です。

 一方、経営学という観点から見てみると、病院経営は特殊である、との考え方が特殊なのであって、システムは一般企業と何ら変わりません。インプットとアウトプットのバランスを取りつつ、efficiencyとeffectivenessの最大化を通じて、病院に関わる人間が皆ハッピーになれば良いのでないでしょうか(もちろん、株主価値の最大化という観点から見ると、私企業と同じ範疇には入れることは出来ませんが)。

 また現在、KBSからの交換留学生としてフランス グランゼコールESSECで学んでいます。海外でのMBAを体験したかった私にとっては非常に良い刺激となっています。フランスで働く医療関係者との会合等も積極的に参加し、新たな知見を得ることが出来る良い機会と考えています。フランスでももちろん固有の医療問題を抱えており、フランス在住の日本人医師らによると、日本の医療制度はやはりよく出来ており、問題多しと言っても誇るべき、と話していました。ただ印象的だったのは、フランスの多くの病院では医療秘書(医師の指示をタイプし文書化する職)が発達しており、それにより医師が事務的業務からかなり解放されています。医療秘書のシステムは日本でも取り組みが始まっていますが、更なる普及と改善を目的に、近いうちにこちらで現役の医療秘書の方にインタビューする予定です。良い仕組みなら日本での導入・普及の一助になる可能性を検討したいと思っています。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 二つのオプションを考えています。一つは病院経営、もう一つは起業です。いずれにしても、医療分野に関わりたいと思っています。入学当初の予定であった、病院経営に携わって自分の理想を実現したい気持ちはありますが、ヘルスケアビジネス関連の起業でも、その理想を実現することが可能ではないかと考え始めています。アプローチ方法は違っても、ゴールが同じであれば良いではないか、と思っています。目標は「1万人の患者さんが治る手助けよりも、100万人の患者さんに喜ばれるシステム創り」です。市場環境や政策状況を鑑みて、そのための最適なアプローチ方法を選択するつもりです。KBSに来る前は俯瞰的な考え方は出来ませんでしたが、ビジネススクールで学習した、長期と短期の目標整合性の調節の大切さを再認識しております。また、KBSで得たネットワークも今後のキャリアプラン検討の際には有効な武器になると思います。

ご自身が紹介されたマスコミ媒体など
日経「大学・大学院ガイド」2008年秋号