佐藤 雅昭 氏 Masaaki Sato, MD, PhD
年齢 : 35歳(2009年1月現在)
現在の職業 : クリニカルフェロー(general thoracic surgery, lung transplantation)
現在の勤務先 : University of Toronto (主にToronto General Hospital), Canada
出身大学・学部・卒業年度 : 京都大学医学部1999年卒業
臨床専門分野 : 呼吸器外科
+αの道に入る前の臨床経験年数 : 5年
+αの道に入った後の臨床経験年数 : 半年
+αの道に入った際の年齢 : 30歳
+αの道の種類 : 基礎研究
何故+αを選んだのか

 本来は臨床留学への架け橋的にUniversity of Toronto の大学院(Institute of Medical Science) のMaster of Science のプログラムに入りました。もともと研究には少し興味がありましたが、基礎的な研究をそれほど強い意志を持って目指していたわけではありません。

 いざはじめてみると、研究が案外面白く、また2年程度では、自分らしい研究---自分のクリエイティビティを発揮し、かつ成果を出すだけの研究---ができないということに気が付いたため、よりじっくりと腰をすえて研究に専念するためPh.D のプログラムに移りました。

どのようにして+αの道に入ったのか

 もともと海外で臨床をやることに興味をもっていたので、そのことを知ってくださっていた京大呼吸器外科前教授(当時助教授)の和田洋巳先生が、1年目の研修医だった私を、たまたま日本を訪れていたUniversity of Torontoの胸部外科Dr. Keshavjee (私の研究・臨床のボス)に紹介してくださり、そこから紆余曲折を経てトロントの大学院に行く事になりました。

+αの道はどうであったか、何を学んだか

 研究に費やした5年間は、自分の臨床と研究に対する考え方を根本から変えてしまいました。何を学んだか一言ではとても言い尽くせませんが、あえて最も大切な部分をあげれば、物事の本質に迫るということ、そして学位の最高位Ph.Dが、分野にかかわらず―そして哲学を勉強しているわけでもないのに―何故Doctor of Philosophy なのか、ということでしょうか。Philosophyは研究の過程で到達する物事の本質ともいうべきもので、Philosophyに至る過程とは帰納的な過程であり、その結果は抽象的となります。つまり、個々の具体的事例には様々な要素が含まれているが、その本質的な部分を取り出す作業、ということです。

 Ph.Dが学術的な業績に与えられるacademic degreeであるのに対して、医師に与えられるMedical doctor(MD)は専門職に与えられる学位(professional degree)であり、その仕事の過程は演繹的です。つまり、それなりに確立された治療を個々の具体的事例(個々の患者)に最適化して適応するのがプロフェッショナル(専門職)degreeをもつMDの役割であるということです。

 このPh.DとMDの関係はそのまま、医学と医療の関係に置き換えることができると思います。つまり、個々の事例(症例)をもとに抽象化し、疾患の病態の本質にせまり、予防方法や治療方法を研究するのが医学であり、そうして得られた医学的知識を個々の具体例に還元、演繹する作業が医療なのです。Ph.Dという学位をとるとらないにかかわらず、この両者を行えるのが理想的な医学研究者であり、その作業が自己完結的であるがゆえに、全体の見通しがたち、医学・医療への貢献度は、MD、あるいはPh.Dよりも大きくなると思うのです。

 この辺りの詳細は、近々メディカルレビュー社から出る予定の『流れがわかる大学院・研究・留学How To(仮題)』を読んでいただければと思います。ちなみに+αにUKロンドンからの記事を書いておられる富塚先生はこの本の共著者の一人で、彼の紹介でここに記事を書かせていただいています。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか

 Ph.D修了後も小さなグラントをあてることができたので、テクニシャンをやとってリサーチフェロー二人を巻き込んで臨床の傍ら研究を続けています。研究に臨床の経験が生きるのはもちろんですが、研究を経ることで臨床に対する見方も大きくかわります。前にも触れましたが、理想的には研究と臨床は帰納と演繹の関係にあるべきもので、bench-to-bed side、bed side-to-bench というループをつくりだすことこそが、研究者でもある医師の役割と考えます。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 臨床のフェローは今のところ、general thoracic (肺と食道)を1.5年、肺移植を1年、心臓血管外科を半年の予定。一方研究面では移植免疫に関する力が不足しているので、ポスドクを1年ほどすることも考えています。しかし、はっきり言って研究と臨床の両立は大変難しく、いまだSurgeon Scientist としての自分の在り方を模索し続けている途中です。

著書など
『流れがわかる学会発表・論文作成How To』2004年メディカルレビュー社