齋藤 哲史 氏 Tetsushi Saitou D.D.S
年齢 : 42歳(2008年10月現在)
現在の職業 : 研究員(社会保障担当)
現在の勤務先 : (株)大和総研
出身大学・学部・卒業年度 : 日本大学
臨床専門分野 : 歯科
+αの道に入る前の臨床経験年数 : 6年
+αの道に入った後の臨床経験年数 : 0年
+αの道に入った際の年齢 : 33歳
+αの道の種類 : 医療・介護のレポート執筆(政策提言等)、ヘルスケアセクター投資分析
何故+αを選んだのか

 臨床を開始して4年目のことですが、治療内容について患者との間に齟齬が生じ、訴訟に発展しかけました。大事には至りませんでしたが、医療行為を行うことの怖さを思い知らされました。

 その際、医療裁判について調べてみたのですが、他の先進国でも、医療訴訟が増加していること、そのため保険費用が高騰していることなどを知り、この業界のリスクの大きさを再認識させられました。

 一方で勤務医の報酬は、こうしたリスクに見合っているとは到底思えませんでした。正にハイリスク・ローリターンの世界です。

 このような理不尽な医療界に厭世感を抱いたことが、プラスαを求めよう(身につけよう)と決意したきっかけです。

どのようにして+αの道に入ったのか

 日本経済新聞の求人募集広告にあった「医療政策を提言できる人求む」という記事を見て、現在の会社に応募しました。採用までの経緯は、募集部署の部長と人事担当職員による一次面接、人事部長による二次面接という流れでした。

+αの道はどうであったか、何を学んだか

 プラスαの道に進んで学んだことは、経済学の知識をベースに、医療の諸問題を捉えることができるようになったことです。

 経済学については、証券アナリスト(証券系の会社では必須の資格です)という資格の必修科目であり(他に証券分析と財務分析)、主に専門学校に通って勉強しました。幸いなことに、下に紹介した同僚が国際金融の専門家で、分からない箇所はいつも彼に教えてもらっていました。

 経済学に対しては、「金儲けのための学問」「実社会で使い物にならない」といった否定的な見解が多いですが、そうではありません。経済学とは、経済学的思考を使って何かを考えることであり、現実の社会でも通用します。例えば、日本の医療が抱える問題の1つに患者の大病院集中がありますが、これなどは価格メカニズムを用いることで凡そ解決が可能です。病院の価格を高めに設定して、患者の自己負担額を引き上げ、軽症の患者を診療所に誘導するのです。実際、インフルエンザの予防接種では、病院は価格を高めに設定して患者の集中を回避しています。これなどは、価格メカニズムが効率化を促進する一例といえます。

 診療報酬設定が全国一律であることも、経済学的には説明がつきません。都会と地方では、需給バランスおよび家賃・人件費などコスト構造が異なるわけですから、報酬設定は地域事情に応じて決めるべきでしょう。最近では、マクドナルド社が地域別の価格戦略を採用しています。それにもかかわらず、医療界では未だに「名目ベースで全国一律=公平」という誤った考え方が蔓延しており、医療資源の適正配分が妨げられています。

 絶対額ではなく比率で見ることの重要性も指摘できます。医療費などを他国と比較する際、円の名目額で行っても意味がありません。為替レートやインフレ率によって値が変わるからです。以前、「日本の医療費は米国に次いで世界2位で圧倒的に高い」と発言した政治家がいましたが、比較時の為替レートによって値は変りますし(最近、内外価格差の話を聞かなくなったのは、デフレによる絶対物価の下落とドル以外の通貨に対する円安によるものです)、費消した医療費が同じ1兆円でも、GDPが2兆円の国と100兆円の国では意味合いが全く異なることは、子どもでも理解できることです。

 私が、敢えて医師に不人気な経済学の話を持ち出したのは、現在の日本の医療政策が経済・財政の論理で動いている、と考えるからです。医療は人命が関与しているからか、「カネ」の話をすると嫌悪感を露にする医師がいますが、政府にとっては医療も施策の一部であり、医療だけを特別視することはできません。政府は財政赤字が大変だから、公的医療費を増やせないと主張しているのですから、財政赤字の規模が膨大であっても診療報酬の引き上げが可能なことを医療界は説明する必要があるでしょう。

 しかし現実には、「公共事業費削減」、「国庫負担を増やせ」、という主張が大半です。公共事業費は、小泉内閣が発足した2001年の34兆円(対GDP6.5%)から、2006年には21兆円(対GDP比4.1%)にまで縮小されています。国庫負担というと、財務省や日銀に大きな金庫があって、その中に紙幣が山積みされているような状態をイメージしているかもしれませんが、そんなカネはどこにもありません。国庫といっても、降って湧いてくるものではなく、その原資は我々の税金なのです。つまり「国庫負担を増やせ」は、増税と同義なのです。

 このように、医療界から発信される情報には、経済的知見が欠落したものが多いように感じられます。医師も経済学を体系的に学ぶか、あるいは専門家を代理人として雇って、政府に抗していかないと、日本の医療は崩壊の一途を辿ることになるでしょう。

現職に+αはどう生きているか、または現職が+αそのものの場合は、臨床経験が現在どう生きているか

 臨床経験自体は、現在の仕事と直接関連はありませんが、「毛色の変った」私の話しでも聞いてみようかと思った方が案外多く、いろいろな方とお目にかかれたことは大きなメリットだったと思います。

今後どのようにキャリアを形成していくか

 日本には、臨床現場における個々の事例を集積して、医療政策の策定に帰納的に反映されるシステムが存在しません。その上、医療費抑制策を30年近く続けています。これでは、どこかに欠陥が現れるのは必然です。現在の医療崩壊はその序章でしょう。自分としては、6年の臨床経験とこれまで培った経済学や法律の知識を活かして、政治家への働きかけ、レポート執筆やメディアへの投稿などを通して、医療崩壊を防ぐ手伝いをしていきたいと考えています。

自身のPR/ブログ・ホームページなど
大和総研
著書
「正しい」医療制度改革とは(共著)
前編:http://www.dir.co.jp/publicity/column/wk/030501medical.pdf
後編:http://www.dir.co.jp/publicity/column/wk/030701medical.pdf
ご自身が紹介されたマスコミ媒体など
週刊エコノミスト{2008年5月1日号(医療経済)、同年4月1日号(社会保障)、2007年7月17日号(介護)}
フジサンケイビジネスアイ(5回連載:2007年9月25日〜10月30日)
朝日新聞(医療費特集2004年)
週刊ダイヤモンド(介護・医療記事でのコメント2007年)
日経グローカル(介護特集2007年)
ケンチャンの晩飯前(TV東京2007/04)
報道2001(介護難民:フジテレビ2008/4/13放映)
社会保険旬報(医療制度改革2002)
サンデー毎日(2008年4月13日号、4月27日号)
その他(医師会報など)