4)高齢者の視点で避難生活の環境を整備すること

 実のところ、高齢化した日本において、被災者の命を奪いかねない重大な感染症とは、高齢者が食事量を減らして体力を落としたり、脱水になったり、トイレを我慢したりといったことによる、誤嚥性肺炎や尿路感染症、褥瘡感染といった問題です。

 ですから、被災生活の環境をしっかり整備することが大切です。例えば、高齢者が避難所の床面に直に座って(あるいは座位保持が困難な方が寝転がって)食事をすることがないよう、避難所の中にテーブルと椅子を用意して、共用の食事スペースを設けること。正しい姿勢で食事をすることで誤嚥予防になるばかりでなく、被災者が一緒に食事をすることで心のケアにも活かされることでしょう。

 また、避難所生活では、支援によって物資が配布されるため、発災前に行っていた日常の家事や近隣への買い物などの機会が失われてしまいます。とくに、ボランティアが(親切心から)支援物資を枕元まで届けていると、高齢者がほとんど横たわった状態で一日を過ごすようになりかねないので注意が必要です。

 そこで、できるだけ避難所の外で生活必需品を配布するようにして、歩ける方には歩いて取りに行っていただくなど、なるべく通常の生活に近い形で基本的動作能力を維持させる、といった工夫をお願いします。こうすることで、体の動きが悪くなってきている高齢被災者に、早く気づくこともできるはずです。

5)傷口から感染する破傷風に注意すること

 日本でも、大規模災害の後に破傷風を発症する方が一定数おられます。これは土壌中に生息する破傷風菌が、傷口から体内に侵入することで感染するものです。被災後に手足が傷ついたまま、復旧作業に取り組まれる方がいらっしゃいます。洪水のあとには、土壌の環境がかき回されているので破傷風菌に曝露しやすい状態になっています。特に手足に傷があるときには、傷を覆うなどの処置が必要になります。

 破傷風には曝露後でも発症を予防する方法があります。傷口を土壌に汚染させてしまったようなときは、救護所の医師に相談するように呼びかけます。また、被災地で活動しようとしている方で、最後の破傷風トキソイド(または三種混合ワクチン)接種から10年以上経過している方は、破傷風トキソイド(または三種混合ワクチン)の追加接種を受けるよう呼び掛けてください。

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 最後に、被災地でボランティアに入ろうとしている方々へのお願いです。被災地に病原体を持ち込まないようにしてください。避難所の中でインフルエンザは自然発生しません。必ず誰かが持ち込んでいます。幸い、今国内では、ほとんどインフルエンザやノロウイルスの流行を認めていませんが、こうしたリスクを極力遮断しておくことが重要です。

 特にボランティアの方が不必要に避難所内に立ち入らないようにすること。物資の受け渡しなどは、できるだけ入口で済ませ、避難所の専属スタッフが搬入するようにしましょう。避難所の各エリアを個人の家と同じような感覚であつかい、その隔離性を維持することは、プライバシーに配慮することのみならず、感染対策上も大きな意味があります。

 言うまでもなく、発熱や咳、下痢などの症状があるときは活動を控えてください。困難に耐える被災者を前にして、多少の体調不良であっても支援活動を継続しようとするのは、倫理観の誤った表出です。自らが感染症の媒介者にならないことを最優先として心掛けてください。

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 以上のことは、私の限られた被災地支援の経験による一般論に過ぎません。被災地の状況は刻々と変化してするものです。常に被災地における最新の状況を確認しながら、被災した方々の健康を守っていただければと思います。