崎長ライト氏による阿蘇地区感染制御のキーマンインタビュー。第3回は阿蘇という広いエリアをカバーする感染制御チーム立ち上げに尽力した泉川公一氏(長崎大学病院感染制御教育センター教授)に、被災初期の感染対策を振り返ってもらった。(編集部)


――ADRO ICTの活動内容を教えてください。
泉川 阿蘇地区災害保健医療復興連絡会議(ADRO)本部の活動目標は、「すべては被災者のために」と「現場の保健師を支える」ことです。これに従って、ADROの感染制御チーム(ADRO ICT)は、避難所や介護施設などの被災者のために感染対策を行い、さらに、現場の保健師とともに、避難所で伝播するインフルエンザやノロウイルス感染症の定時連絡体制を確立しました(関連記事)。

長崎大学病院感染制御教育センター教授の泉川公一氏。崎長氏からのSOS発信で長崎から阿蘇に駆けつけ、感染制御チームの立ち上げに当たった。

 その具体を時系列で示します。4月16日の本震から8日後、24日に正式発足したADRO ICTの管轄エリアは阿蘇保健所の管轄エリア、すなわち、阿蘇市、南阿蘇村、西原村という広範囲に及びました。

 まず着手したのは、感染リスクのアセスメントです。調査する項目は、避難所の形態、避難者の年齢構成、手指衛生(水道の復旧状況、トイレの後に手洗いが可能か)、汚物処理の状況(トイレは自動水洗か否か、トイレの清掃状況など)、食品管理、換気、体調管理、物品の確保状況(石鹸、石鹸の形状、速乾性アルコール手指消毒、マスク、消毒薬、体温計などの有無)、罹患状況、要介護・援護者の状況、皮膚・排泄ケアの状況、インフルエンザやノロウイルス感染者を隔離する場所の有無などと、多岐にわたります。

 このアセスメントにより、現場での感染リスクを判定でき、改善点や対策を検討し、変化に応じた対応もできます。1市2村でおよそ80カ所の避難所、介護施設などを対象に、自衛隊福岡病院や熊本病院のICT、愛知県のさくら総合病院ICT、さらに長崎大学のICTの3チームでローラー作戦を行いました。ほぼ3日をかけ、4月27日まで評価を行うことができました。

 アセスメントと同時に、感染予防に関する教育も行いました。手指衛生剤などの予防に関する備品も搬送し、手洗いの仕方や汚物処理の方法などについて現場で具体的に指導しました。

 アセスメントを終えた4月28日以降は、定時連絡体制の確立もなされていました。このアセスメントで危険度が高いと判定された避難所、あるいは、インフルエンザやノロウイルス感染者の報告が上がってきた避難所を重点的に巡回し、現場の保健師や医療従事者と細かい感染対策を行いました。もちろん、この対策には、日本赤十字社の医療支援チームや国境なき医師団など避難所に常駐して頂いたチームや、地元医療機関や個人的に活動されていた先生方のご尽力も大きかったと思います。

 5月に入ってからも、避難者の方々に感染症を理解してもらい、不安を取り除いた上で、手指衛生の重要性などについて直接お話しする活動を強化してゆきました。

――阿蘇地域の感染制御の現状、今後の方針を教えてください。

泉川 4月24日以降、幸いにしてインフルエンザやノロウイルス感染症のアウトブレイクは起きませんでした。ADRO ICTが避難所における基本的な感染対策についてADRO ICTマニュアルを作成し、保健師、避難所に周知した効果があったのかもしれません。

 避難所の感染リスクアセスメント、巡回、報告体制の確立、マニュアル整備という当初のミッションがいったん終了したことを受け、ADRO ICT長崎大学チームは5月6日でADRO本部からいったん撤収しました。以降は、阿蘇医療センターで柿本純子ICN(感染管理看護師)が窓口となってADRO ICTの活動を継続し、熊本県感染管理ネットワークが実務を担うことになりました。

 5月9日より学校が再開されることを受けて、各避難所の統合や閉鎖などが行われており、再び混乱が生じる可能性はあります。しかし、マニュアルを統一化しているので、震災直後のような混乱は生じないと思っています。ただし、アウトブレイクなど有事の際には、長崎大学チームは再び現地に入りサポートする体制でいます。

――今回の活動で最も印象的だったことは何でしょうか。

泉川 余震が続いていて、今後も大きな地震が起こる危険性がある中で活動が行われました。かかる状況では、感染対策もその時点だけではなく、中長期的な視点をもった形で行うことが求められます。各医療チームのご尽力により、インフルエンザやノロウイルス感染症への対策はADRO ICTが立ち上がる前から、各避難所でしっかり行われていました。

 この状況が長期化するにつれて、避難者のストレスは蓄積されていきます。今後はこのストレスを如何に減らせるか、といった視点で感染対策を行うことが求められると思います。ノロウイルス感染者を「隔離する」とは言わず、「保護する」といった表現がADRO内部でよく聞かれました。「隔離」という言葉は一般の方には、強い響きがあります。避難者、感染者の両者に対する配慮で、病院の院内感染対策に慣れている自分はハッとさせられました。

 以上がADRO ICTの活動の中間報告ということになりますが、これから暑くなり、湿度も高くなります。食中毒をはじめ、様々な感染対策の継続が必要です。これからも、地元医療機関を中心に、各支援チームや保健師の皆さまと連絡を密にして、対策に協力してゆく所存です。

 最後に、一日も早く地震が終息して復興が進むことを祈念します。